2005 Fiscal Year Annual Research Report
一分子計測と電荷制御によるクロマチン構造変化の研究
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17740275
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村山 能宏 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (60334249)
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Keywords | DNA / 凝縮転移 / 一分子計測 |
Research Abstract |
本研究の目的は、"静電相互作用の調節による遺伝子発現制御"という新たな概念の物理的根拠を明らかにすることにある。そのためにはDNAの負電荷と相互作用する物質の電荷量を制御し、静電相互作用の変化がDNA鎖の凝縮、非凝縮状態へ及ぼす影響を定量的に評価する必要がある。 本年度は、正電荷を持つナノ粒子(ポリリジンコートされた直径10-100nmのシリカビーズ)を用いて、DNAの一分子力学測定を実施した。2005年に吉川等(京都大学)により、DNAがナノ粒子に巻き付いたヌクレオソーム構造に酷似した構造が観測されたが、本研究で現在までのところ、この構造を特徴付ける張力応答は観測できていない。一分子測定系では、観測している一本のDNAとナノ粒子が相互作用しない限り変化を見ることは出来ないため、バルク系とは異なるナノ粒子濃度と観測時間(数時間の長時間測定)が必要であることが分かった。反応チャンバー及び測定システムの改良により、これらの困難はすでに克服したため次年度において新たな知見が得られると期待される。 また、スペルミジン(3+)による凝縮転移下において、凝縮状態のDNAの張力応答が伸張/緩和速度により変化することが分かった。広い伸張距離範囲で力一定の応答を示すスペルミジン濃度において伸張/緩和速度を変化させると、伸張/緩和サイクルで生じる不可逆仕事の量が速度に対し線形に増加する結果が得られた。さらに、凝縮開始を特徴付ける伸張距離が存在することを示唆するデータが得られ、凝縮、非凝縮状態の決定に、"静電相互作用の強さ-DNA鎖の広がり"及び"凝縮時間-DNA鎖の緩和時間"が密接に関係していることが分かった。これらの結果は、生体内のDNA凝縮機構のみならず、非平衡下における荷電高分子鎖のダイナミクスの観点からも非常に興味深く、次年度に向けてさらに研究を進める予定である。
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