2006 Fiscal Year Annual Research Report
非線形赤外分光を用いて溶媒-溶質間の相互作用強度を測定可能にする物理的原理の開発
Project/Area Number |
17740278
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金 賢得 京都大学, 大学院理学研究科, 助手 (30378533)
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Keywords | 生物化学物理 / 量子輸送 / 量子コヒーレンス / 生体高分子 |
Research Abstract |
紅色光合成細菌などの光合成アンテナ系では、様々な電子励起状態の超高速輸送を示す。これらの超高速な輸送は、太陽光エネルギーによって励起された電子エネルギーが失活する前にLH1アンテナ中心にあるReaction Centerまで運ばれるために実現されたものと思われる。重要なことは、これらの超高速輸送が従来のスタンダードな励起エネルギー輸送方程式であるForster理論では記述できないという事実である。すなわち、超高速輸送は新しい輸送方程式の存在を示唆していると言える。 我々は超高速輸送の中でももっとも速い時定数(100fs-200fs)を持つLH2アンテナ内の超高速輸送に注目した。LH2アンテナは18個のB850クロロフィルが強くカップルした分子凝集体である。このような分子凝集体では、電子励起は凝集体全体に対して(LH2ではリング全体に対して)起きる。そのような電子励起状態をexcitonと呼ぶ。我々はこのexcitonの超高速な輸送がどのように起こっているかを理解すべく、その輸送方程式/時間発展式を導出した。また、excitonの超高速輸送の効果を近年目覚しい進歩を遂げている非線形レーザースペクトロスコピーで実験的に観測可能な物理量として取り出すことに成功した。 非線形スペクトロスコピーでは試料に複数回の電場パルスをあて、その非線形応答関数を観測する。非線形応答関数には、線形吸収スペクトルよりもより豊富な試料中の分子に関する情報が含まれており、より詳細に分子の性質を調べるのに適している。我々が今回注目したexciton輸送はcoherent状態にあるdensity matrixのという輸送、すなわちdensity matrixのoff-diagonal partの輸送である。このexciton-exciton coherent transfer(EECT)は、psオーダーの時間領域では終了しているとされ、これまで注目されてこなかったが、今注目しているfsオーダーの超高速な時間領域では有意に効いてくることが予想される。実際、今回計算したEECTの効果を含む場合と含まない場合とで、非線形応答関数に如実な違いが出ることがわかった。そして、EECTはfsオーダーでの超高速decoherenceを引き起こす重要な役割を担っていることがわかった。量子coherenceの消失が通常はpsオーダーで起こることを考えると、これはultrafast memory lossとでも言うべき現象である。 【参考文献】Kim Hyeon-Deuk, Yoshitaka Tanimura and M.Cho, submitted.
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