Research Abstract |
酸素のX線ラマン散乱(XRS)測定を実現し,凝集酸素の局所構造および2p電子状態を調べるために,まずはじめに液体および固体酸素を封入するためのセルを開発する必要がある.セルとしては常圧液体用のダイヤモンド・セル(DC)と高圧用ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)の2種類を考えているが,本年度は主としてそれらを設計・製作するための予備実験を行った. 既存のXRS測定装置は,試料からの非弾性散乱X線を分光するためのアナライザー結晶を最大8枚利用することにより,高効率にXRSスペクトルを得ることができる.しかしながら,この装置を利用するためには,試料への入射X線および試料からの散乱X線は両者ともダイヤモンドのパスを通過する配置を取る必要がある.しかしながら,8〜10keVのX線はダイヤモンドの吸収によってその強度が大きく減衰する.XRSシグナルはその強度が微弱なため,絶対的なX線強度を必要とする.そこで,ダイヤモンドを通過させた場合にXRS測定が実現可能かを調べるために,ダイヤモンド板を用いて実際にダイヤモンドを通過させた場合のXRSスペクトルの測定を行った. 測定は大型放射光施設SPing-8のBL39XUで行った.アナライザー結晶は,Si 444球面湾曲結晶を5枚用いた.利用したX線のエネルギーは、8.0〜8.7keVであり,検出系全体のエネルギー分解能はおよそ1.1eVであった.測定試料は,軽元素から構成される物質の代表として,液体のH_2O,液体のC_2H_5OH,固体BN単結晶を用いた.いずれの試料も,通常の測定では比較的明瞭なXRSシグナルが観測された.一方で,ダイヤモンドを通過させた場合,、非弾性散乱X線強度が1/5になっており,その中に含まれているXRSシグナルも1/6程度まで小さくなっている.したがって,ダイヤモンドを通過した場合のXRSシグナル強度は,通過しない場合に対する1/30程度なっており、シグナル・ノイズ比の低い結果が得られた.しかしながら,今回の予備実験ではXRSシグナルが検出可能であることが示され,今後の課題としては,如何にバックグラウンドを減少させるか,また検出効率を向上させるかが鍵となる. 本実験の結果を基に,XRS装置で利用可能なDCおよびDACの設計を行った.特にDACに対してはアナライザー結晶が最大8枚利用できるように工夫を行い,将来的には低温でも測定が可能な材質で作製された.来年度は,作製されたDCおよびDACでのXRS測定を実施する予定であり,2006A期のSPring-8共同利用実験課題にも採択されている(Proposal No.2006A1073).
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