Research Abstract |
本研究はフタロシアニン(Pc)骨格にフラーレン(C^<60>)を近距離に導入して,ユニット同士の分子軌道間相互作用を誘起し,新規な芳香族電子状態の実現を目指すものである.平成19年度は本課題の最終年度であり,過去2年間の研究成果を踏まえ,ユニット間相互作用のスイッチングを目指した研究を展開した. これまでに,Pc周辺の置換基の電子供与(吸引)性を操作すると,Pc部位の分子軌道エネルギーが変化し,C^<60>との相互作用に大きな変化が現れることが分かっている.しかし,この方法は2つの異なる電子状態を達成する為に,置換基を別のものに取り替えなければならず,1種類の分子で2つの電子状態をスイッチングすることは困難であった.そこで第一に,Pc中心に酸化還元活性な金属を導入し,金属の酸化数の違いで,Pc骨格の分子軌道エネルギーを変動させることを検討した.中心金属として鉄,コバルト,バナジルの導入に成功し,特にバナジル体では,電子供与性と吸引性置換基の中間に相当する電子状態の実現が可能となった.磁気円偏光二色性分光法,バンドデコンボリューション解析,および密度汎関数計算による解析結果を論文発表した(Inorg. Chem. 2008).第2に,Pc周辺にクラウンエーテルを導入し,分子周辺のイオン環境により,電子状態のスイッチングを行うことを試みた.クラウンエーテル基は,初期状態では電子供与性置換基として機能する.金属イオン存在下では正電荷を持ったイオンがクラウン部位へ取り込まれ,相対的にクラウンエーテルのPcに対する電子供与能の低下が期待できる.15-クラウン-5を導入したクラウン-Pc-C^<60>三元系を構築し,ナトリウムイオン滴定実験を行った結果,分子周辺のイオン環境の変化がPc-C^<60>複合体の電子状態の違いとなって明確に現れることが明らかとなり,外部イオンを用いた電子状態スイッチングが可能となった.
|