2005 Fiscal Year Annual Research Report
不整合格子系有機超伝導体における異常金属相と超伝導相の研究
Project/Area Number |
17750176
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
川本 正 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 助手 (60323789)
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Keywords | 不整合格子 / 有機超伝導体 / フェルミ面 / 有効質量 |
Research Abstract |
MDT-TTFのセレン誘導体であるMDT-STのI_3塩は、有機ドナー分子と無機アニオン分子が不整合格子を組む有機超伝導体である。組成が(MDT-ST)(I_3)_<04.17>であるため電荷移動量は通常の0.5価よりも少ない0.417価である。シュブニコフ・ドハース振動で観測された4つの軌道のうち2つはバンド計算とよく一致するが、2つは一致しない。これらの一致しない軌道は、フェルミ面がアニオンの不整合格子ポテンシャルによって再構成されていると考えるとうまく説明できる。ただし、再構成のベクトルはI_3の周期に対応するqではなくヨウ素原子間の平均距離に対応する3qである。これはX線振動写真でqのスポットが明瞭には観測されず、3qがはっきりと写っていることから、周期ポテンシャルとしてより強い3qの周期を摂動的に電子が感じていることを意味している。また、角度依存性磁気抵抗振動は、磁場が伝導シートに垂直な方向に印加されたとき(縦磁気抵抗)にピークを示す。通常とは逆のこの振る舞いは,フェルミ面のたわみ方がビア樽型ではなく交互に波打った形状(staggered warping)の場合にのみ観測される。有機伝導体でこの型のフェルミ面が観測されたのは、これが初めてである[Phys.Rev.B73,024503(2006)]。一方、(MDT-TSF)(I_3)_<0.422>においてはバンド計算から予測される二つの閉軌道のみが観測された。これは電子が不整合アニオンの周期ポテンシャルを摂動的に感じていない、すなわちより綺麗な電子系、ことを意味している。超伝導転移温度(T_c)が高いほど状態密度は小さく、有効サイクロトロン質量は大きくなるという傾向が得られた。結晶構造が同型であることを考慮すると、有効質量の増大は電子間相互作用によると考えられる。しかし、T_cを決定する因子としてアニオンによる周期ポテンシャルと電子間相互作用のどちらが支配的であるかは明らかではない。
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