Research Abstract |
本研究では,細胞内力学構造システムのダイナミクスにおける力学因子と生化学因子の相互作用から生み出される動的なシステム構築の過程を明らかにするため,実験的検討およびタンパク分子動力学シミュレーションを用いた理論的検討の両面から検討を行った. まず,in vitro実験において,細胞内アクチンファイバー構造の動的安定性に及ぼす変形や力などの力学因子について,定量的に実験を行った.移動性細胞であるケラトサイトのラメリポディア内のアクチンネットワーク構造に対して,量子ドットを用いた蛍光ラベリングを行い,移動中における逆行性流れを可視化することができた.さらに,得られた可視化画像に対して,画像相関法を適用することで,移動過程におけるアクチンネットワークの移動方向ひずみ増分の分布を定量的に評価することができた.その結果,移動方向に対して,負(圧縮)の増分ひずみが確認され,すなわち,ケラトサイトの移動過程において,ラメリポディア内においてアクチン骨格構造の予張力が解放され,それが,アクチンの脱重合と直接関連していること,すなわち,力学的因子と生化学因子との相互作用により,アクチンダイナミクスによる機能発現が調整されている可能性を示すことができた. 次に,この実験仮説を受けて,実際のアクチンフィラメント(タンパク)レベルにおける張力とタンパクコンフォメーション変化との関連を探るべく,分子動力学法を用いた検討を開始した.まず,単一,および,少数のアクチンモノマーから形成されるフィラメント構成要素に対して,引張負荷を与え,力と変形の関係を分子動力学で評価できることを確認した.さらに,1クロスオーバーを形成する14個のアクチンモノマーからなる巨大フィラメント構成要素を計算機内で構築し,その構造に対して,張力作用に伴う分子の揺らぎや内部工ネルギーの変化について評価し得ることを確認した.今後,さらにコフィリンタンパクの結合領域との関連について,さらに検討を加えることとなった.
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