Research Abstract |
付加的せん断ひずみ層を有する線材表層部は中心部と比較して引張り強さが高いことが判明している.この事実を結晶学的に検討するために,SEM-EBSDによって結晶方位を測定した.1073K,30minで焼鈍した0.300mmの低炭素鋼線を,ダイス半角7degのダイスを用いて,減面率16%で0.275mmまで1パス伸線した線材を供試材とした.測定個所は表層部と中心部で,測定範囲は幅0.04mm,長さ0.1mmとした.本測定では,2deg,5deg,8degの結晶方位差を亜結晶粒界とした場合の結晶粒マップを描き,結晶粒数の変化から結晶粒分断化を検討した.その結果,表層部では,結晶方位差5degの結晶粒分断化が確認されるのに対して,中心部ではその分断化が観察されなかった.このように,加工によって生じる結晶方位差は,中心部より表層部が大きく,結晶粒分断化が進行し易いことが判明した.よって,表層部の引張り強さが高くなると考えられる. 付加的せん断ひずみ層の発生要因の一つとして,ダイスと線材の間に生じる摩擦が考えられる.そこで,摩擦が付加的せん断ひずみ層に与えている影響を究明した.伸線後,電解研磨で表層部を除去しつつ,引張り強さを測定した.その結果,摩擦係数が高い無潤滑伸線では,表層部の引張り強さが中止部と比較して200MPaも上昇した.それに対して,摩擦係数が低い潤滑伸線では,表層部の引張り強さが中心部より70MPaしか上昇しなかった.そこで,SEM-EBSDで結晶方位を測定し,結晶粒分断化について検討した.測定条件は前述と同じである.摩擦係数が高い場合では,表層部の結晶粒は中心部より分断化されていたが,摩擦係数が低い場合では,表層部と中心部に分断化の差がなかった.よって,摩擦状態は付加的せん断ひずみ層の発生,および結晶粒分断化の重要な要素であると考えられる.
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