2006 Fiscal Year Annual Research Report
古代東アジアにおける木造塔の構造と意匠に関する研究
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17760524
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Research Institution | National Research Institute Cultural Properties, Nara |
Principal Investigator |
箱崎 和久 独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (10280611)
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Keywords | 安楽寺八角三重塔 / 江蘇省 / 磚身木檐塔 / 雲岩寺塔 / 瑞光寺塔 / 栖霞寺舎利塔 |
Research Abstract |
本年度は、平成16年度に馬込遺跡(千葉県印西市)で出土し七重塔に復元された瓦塔の調査、安楽寺八角三重塔(長野県上田市)の調査、中国江蘇省に残る古建築の調査を実施した。このうち、馬込遺跡の瓦塔は来年度も引き続き調査を予定している。 安楽寺八角三重塔の調査日本に唯一現存する八角塔であるこの塔は、鎌倉時代の建築であるが、中国直輸入の建築様式を用いて建てられたと言われるものの、その構造については触れられることがなかった。簡潔に言えば、井桁を組んで軸部を固める平面四角形の塔を45。回転させた形式をもつ。当然、通肘木の断面欠損が大きくなるはずなのだが、上下4段に組む通肘木を、一部は通して、一部は途中でとめるなど、巧みに木組みを調整しながら構成している。ただし、隅を含めて3方から挺出する肘木が大斗上の柱心で交差するのを避けるため、その交点をいくらか内部に寄せている。これは単純に考えれば、側まわりの柱位置からいくらか内部に入った位置を基準に横架材の長さを設計しなければならないということにほかならない。中国建築との比較をするとともに、八角建物の設計法の解明というあらたな問題が生じた。 江蘇省の古塔調査いわゆる中国江南地域には、時代は10世紀以降に下るが、塔身を磚造とし屋根を木造とした、いわゆる磚身木檐塔が多く、江蘇省蘇州市には4塔が現存する。いずれも八角塔で、木造の屋根部分を失っている雲岩寺塔(960年頃)があるものの、復元的に考えれば、初重を裳階状に扱って屋根を大きくし、上層に登ることができる点でほぼ共通している。上層で柱間を減らすのは瑞光寺塔(1110年頃)で、七重のうち四重より上層を、組物・腰組とも2間に割っている。ただし詰組組物とするため、下層と同じくアーチ出入口を中央に設けている。その点では、塔身部の柱間と軒部分とが素材ともどもまったく別の構造である。組物は内部構造にも大きな影響を与えることがなく、出入口や窓などの側まわりの柱間装置や内部構造に左右されず、組物を配するのが磚身木檐塔の特徴で、日本にはこれに類するものはない。また石造の栖霞寺舎利塔(南京市:950年前後)は八角五重塔だが、軒を平行垂木としている点が異色であり、古制を残すと思われる。
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