2005 Fiscal Year Annual Research Report
亜熱帯島嶼に隔離分布するモズにおける環境適応と近親交配の影響
Project/Area Number |
17770019
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
高木 昌興 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (70311917)
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Keywords | モズ / 海洋島 / 南大東島 / 近親交配 / 環境適応 / ヘテロ接合度 / 近交係数 / 遺伝 |
Research Abstract |
1997年に南大東島で調査を開始した。1997-8年の調査で南大東島に生息するモズの形態について記載、島内の分布状況、環境選好性、および簡単な繁殖生態が明らかになった。この基礎情報は1999年に山階鳥類研究所研究報告に発表した。この調査期間中に採取した血液から、DNAを抽出し、モズ類で登録されているマイクロサテライトDNAのプライマーの有効性について検討した。この結果、多型の認められる5つプライマーが利用可能であることがわかった。これを用いて、南大東島、小笠原父島、北海道のモズの対立遺伝子数、ヘテロ接合度を明らかにした。その結果、南大東島におけるモズの対立遺伝子数は他の場所に比して50%少なく、ヘテロ接合度は20%低かった。これは南大東島のモズ個体群は数少ない創始者によって構成されていることを示している。父島と渡り性で個体の移出入が多い北海道個体群の平均ヘテロ接合はほぼ等しかった。しかし、父島のモズには舌の形状や足の形状に奇形が認められた。この理由はまだ解明されていない。 2001年から南大東島で調査を再開した。多くの興味深い現象を確認している。南大東島ではモズ卵の孵化率が他の地域よるも30%低い。通常鳥類の個体群の齢構成(成鳥と若鳥)は、成鳥が7割ほどを占める。ところが南大東島では6割程度を若鳥が占める。南大東島のモズの寿命が他の鳥類よりも短いことに起因すると考えられた。一般に成鳥の一腹卵数は若鳥よりも多い。しかし、南大東島では若鳥の一腹卵数は成鳥よりも多い。さらに、亜熱帯に属する南大東島は日射が強いにもかかわらず、日向に面する場所に営巣し、日射によって雛が全滅する事例が全失敗の10%を占めていた。これらの現象は、近親間の配偶、または近親ではないにしろ同祖的な遺伝子を配偶者間で多く共有している結果、および南大東島のモズが新たに定着し始めた亜熱帯環境にまだ適応していないためと考えられた。 平成17年度は、繁殖しているモズの捕獲、計測、採血、繁殖状況の追跡を中心に行った。現在、DNA解析が順調に進行中である。18年度中に分子生物学的データと野外で得られたデータの関係性が明らかになる。個体それぞれの近親交配の度合いが強いと繁殖成績が低いものと予想される。また、南大東島は海洋島で個体の移入はきわめて少ない。さらに、移出も困難であることから、何らかの近親交配を回避する行動が発達している可能性がある。その可能性の1つが、モズに認められるつがいが受精である。雌がつがい外の雄と交尾をすることで、つがいの雄が近親であることによって生じる近親交配の可能性を低めることにあるのではないかと予想している。平成18年度には、モズの捕獲数を増やし、繁殖と分子生物学的データの対応関係を明確なものとする。さらに島内のモズの動きを詳細に把握し、近親交配回避の機構、および近親交配と環境適応との関係を明らかにする。
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Research Products
(3 results)