Research Abstract |
本研究では,地表棲小型哺乳類孤立個体群がどの程度の遺伝的多様性を有し,また多様性維持のメカニズムを解明することを目的とした.対象分類群における分布の制限要因や生息環境を生態学的に調査,分子遺伝学的に遺伝的多様性を解析,これらの結果より,多様性が形成されてきた背景を進化学的観点から推定し,個体群において遺伝子の流動がどのように起きているのかを検討した.調査対象とした分類群は渓流棲のカワネズミ,地中棲のアズマモグラ,岩塊谷地棲のヤチネズミとした.いずれの種も,分布構成が単一的な面ではなく,孤立個体群を形成しやすい棲息環境の選択性を有しているのが特徴である. まずカワネズミは,本州から九州にかけて大きく4つの遺伝子型グループを有し,また地域間における遺伝的分化も高レベルで観察された.カワネズミの遺伝的多様性は,推定レフュージア数と急速な分布拡大によってもたらされ,また,複雑な山岳地形がもたらす複雑な分散様式が多様性を維持しているものと推察された.アズマモグラは,遺伝的に異なる個体群が東北地方太平洋岸で分布を接しているが,これは二つの異なる分布拡大経路(日本海岸コースと太平洋岸コース)に伴う遺伝的分化と,その後の二次的接触による遺伝子流動によりもたらされたものと推察された.ヤチネズミは,一般に高山棲と考えられているが,遺存的に低地個体群が認められ,このような個体群においても,比較的高い遺伝的多様性が認められた.ヤチネズミは湿度の高い岩塊地を選択的に棲息しているが,このような環境が維持されていれば,個体群が維持されており,環境変遷との関連性についても興味深い生態を有することが示唆された.
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