2005 Fiscal Year Annual Research Report
進化過程で新奇形質が生じる基盤の解明:前口動物の付属肢形成の比較を通して
Project/Area Number |
17770202
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
丹羽 尚 独立行政法人理化学研究所, 形態形成シグナル研究グループ, 研究員 (50373345)
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Keywords | ゴカイ / カゲロウ / イシノミ / 付属肢 / 形態進化 / 新奇性 / Distal-less遺伝子 / Wingless遺伝子 |
Research Abstract |
本年度は,まず前口動物群の付属肢進化プロセスに沿って選択した3生物(ゴカイ類,イシノミ類,カゲロウ類)について,室内飼育を開始した。特にイシノミ類については筑波大学の町田助教授,カゲロウ類については信州大学の東城助手の協力を得ることで,3種すべての生物より受精卵および幼生の入手に成功した。cDNAライブラリーの作製を目的として各生物卵よりmRNAの抽出を試みたが,十分な収量が得られなかったため,RT-PCR法による付属肢形成遺伝子群の単離を行った。結果,wingless(wg)遺伝子をはじめとする種々の遺伝子を各生物から単離することに成功した。中でも特にwg,とhomothorax(hth)遺伝子については,詳細な発現解析を行うために,ポリクローナル抗体を作製した。ゴカイ類については,付属肢形成が行われる尾部領域に解析を限定し,まずは透過型電子顕微鏡により尾部領域を構成する細胞群を同定したうえで,詳細な遺伝子発現パターンを解析した。その結果,ゴカイ類においても付属肢形成の初期マーカーであるDistal-less(D11)遺伝子がWG発現細胞に隣接する細胞群において誘導されていることや,D11発現がhth遺伝子の発現低下領域にみられることなどが明らかになった。これらの発現パターンは昆虫類のものと類似しており,前口動物の進化において付属肢の形成誘導システムが共有保存されている可能性を示すものであった。さらに,付属肢が発達段階に入ると,ゴカイ類のwg遺伝子の発現パターンは昆虫類のものとは異なるものの,最終的には付属肢の背側基部領域にwg発現が残り,昆虫類の付属肢の場合との共通性が確認された。wg遺伝子は,さまざまな器官形成の誘導を担うことから,前口動物の付属肢進化においても付属肢の背側基部に再配置するwgが背部器官(新奇形質)形成のオーガナイザーとして働く可能性が予測された。
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