Research Abstract |
薪炭林や農用林に由来を持つ落葉広葉樹二次林が卓越する多摩丘陵の一部を対象に,微地形ごとに埋土種子構成が異なるかを明らかにする予備調査を行った。微地形以外の要因を取り除くため,過去樹林地として利用され,少なくとも20年以上前に伐採管理が放棄された一次流域を空中写真と現地聞き取り調査により抽出した。開析谷を横断するトランセクトに沿って,尾根斜面,下部谷壁斜面,谷底面にそれぞれ2カ所ずつ調査区を設置して,現存植生と埋土種子調査用の土壌試料を採取した。試料は,未分解の落葉層を注意深く取り除いた後,表層5cmの深さで総量0.02m^3をそれぞれの調査区から採取して,全天下の実験圃場で発芽実験を行った。その結果,6カ所の調査区で合計74種2466個体が記録され,その内26種のみが現存植生で確認できた。そのため,調査区ごとの埋土種子組成と現存植生の類似度は非常に低く,とくに尾根斜面では1種(ヒサカキ)のみであった。調査区間での種構成の違いは大きく,組成表を用いた序列化の結果,おおむね微地形と対応した組成になっていることが確認でき,下部谷壁斜面や谷底面には湿性地生の植物が多く出現し,立地特性と対応した結果となった。微地形ごとの種数,個体数,種多様性指数を比較したところ,谷底面で最も出現種数と個体数が多かった。ただし,ドクダミやミヤマカンスゲ,ミズ,イなど,特定の種の個体数が著しかったため,多様性指数は低い結果となった。一方,最も各種多様性指数が高くなる傾向にあったのは下部谷壁斜面だが,出現種数と個体数は他の微地形単位より低くなった。これは,当立地が斜度40度を超える急斜面であることから,表土の撹乱を受けやすいことを示していると考えられたが,それにもかかわらず,この立地に典型的な種が埋土種子から出現し,それらが現存植生にみられなかったことは,注目すべき結果となった。
|