2006 Fiscal Year Annual Research Report
有明海の高濁度水塊における稚魚の摂食・生残戦略:行動学・化学生態学的アプローチ
Project/Area Number |
17780154
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小路 淳 広島大学, 大学院生物圏科学研究科, 助教授 (10397565)
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Keywords | 有明海 / スズキ / 高濁度水塊 / 成長 / 生残 / 摂餌 / 被食 / 加入 |
Research Abstract |
有明海におけるスズキは,以下のような生態特性を持つことが明らかとなった.熊本県沖で産出されたのち,ふ化仔魚は約50-8O日の浮遊生活期を有明海奥部で過ごす.有明海最奥部に位置する筑後川河口域に体長約15m士n以上のスズキ仔稚魚が3月下旬を盛期として遡上し,河口から10・15km上流の低塩分水域に形成される高濁度水塊を成育場とする.高濁度な成育場は被食シェルターとしての機能を持つ.5平成18年度には,筑後川河口域の高濁度水塊において小型ボートを用いたサンプリングにより得られたスズキ稚魚の頭部から耳石を摘出し,ふ化日および成長履歴の推定およびそれらと環境要因との関係の解析を行った.その結果,加入豊度と3月の河川流量の間に有意な負の相関関係が認められた.このことは,河川流量が濁度をはじめとする物理的環境諸要因に作用し,スズキ加入を間接的に変動させている可能性を示す.しかしながら,河川流量が多い年にスズキ仔稚魚の生残率1筑後川への来遊重が低下するメカニズムは不明である.河川流量の増大は春期の河口域水温とスズキ仔稚魚の成長率を上昇させることが確認された.したがって,河川流量の増大が初期成長への影響を通じて加入に負の効果をもたらすとは考えがたい.春期河川流量の増大は,1)成育場環境(渾度をはじめとする物理環境および餌料生物密度)の急変や2)仔稚魚の河川遡上の阻害などを通じて,加入に負の効果をもたらすものと想定された.高濁度水塊における物理環境(水温,塩分,濁度)および生物環境(餌料プランクトンシノカラヌス分布密度)の複数年データの解析にもとづき,高濁度水塊における稚魚の生残を規定する要因の解明を最終年度(H19年度)に実施する予定である.
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