2005 Fiscal Year Annual Research Report
漁獲圧に起因する漁獲対象動物の急速な進化〜ホッカイエビの遺伝形質変異を例として〜
Project/Area Number |
17780157
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
千葉 晋 東京農業大学, 生物産業学部, 講師 (00385501)
|
Keywords | 漁獲 / 急速な進化 / 局所適応 / 生活史変異 / 性転換 / 甲殻類 |
Research Abstract |
本研究の目的は、大型個体(メス)だけが漁獲されている雄性先熟(オスからメスへ性転換)の雌雄同体甲殻類ホッカイエビをモデルケースとし、漁獲対象動物の生活史形質における漁獲の影響を明らかにすることである。2年計画の1年目にあたるH17年度は、北海道サロマ湖、能取湖、臼尻沿岸、網走沿岸で野外調査と飼育実験を行った。 野外調査の結果、漁獲圧の高いサロマ湖、能取湖のホッカイエビ個体群の体長組成は、漁獲されていない網走沿岸、臼尻沿岸よりも明確に小さいことが明らかとなった。漁獲圧以外の環境要因を比較したところ、臼尻沿岸の冬季水温が高い傾向にあったものの、その他の物理生物的要因に大きな差は認められなかった。したがって、ホッカイエビの体長組成の個体群間差は、漁獲圧の違いに起因している可能性が高い。しかし、水温以外の環境調査に関しては、ある特定の季節の比較であることから、平成18年度の追加調査の結果を考慮する必要がある。 統一環境での飼育実験により、野外で観察された傾向が遺伝的な形質変異であるか否かを検証した。各個体群の稚エビを実験室内でふ化させ、能取湖の水温環境で飼育し、成長量を比較した。その結果、漁獲されていない網走沿岸個体群は、漁獲圧の高いサロマ湖、能取湖個体群よりも初期成長量が高く、性成熟の速度も速かった。このことからも、ホッカイエビの成長量に漁獲圧が影響していることが示唆された。しかし、漁獲されていない臼尻沿岸個体群の成長量は、サロマ湖・能取湖の個体群並みに低く、またほとんどの個体が死亡した。この結果に対しては、ホッカイエビがそれぞれの地域の温度環境に対しても局所的に適応している可能性が考えられる。
|