Research Abstract |
(1)アセチルコリンによる心筋保護作用のメカニズムの解明 [目的]迷走神経刺激による細胞保護のメカニズムを明らかにするためには,その神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)の心筋細胞への直接的な作用を調べる必要がある。そこでAChによって活性化あるいは誘導がかかる細胞生存シグナルを探索した。 [方法]心筋細胞初代培養系を用いて低酸素刺激(1%O_2)を2時間負荷し,同時にAChを投与した。MTTアッセイによる細胞生存率を指標にして,心筋細胞の低酸素負荷に対するAChの作用を評価した。同時に,細胞生存シグナルの指標となるAkt(protein kinase B)やアポトーシスの調節因子の一つであるBcl-2の発現解析を行った。 [結果]ACh処理により,低酸素負荷によるアポトーシスが8割抑制された。同時にリン酸化されたAktタンパクの増加,および,Bcl-2タンパクの分解抑制がみられた。この効果は,ムスカリン受容体遮断薬であるアトロピンの前投与により消失した。以上の結果は,AChが心筋細胞に直接的に作用して,抗アポトーシス効果を発揮することを示唆している。 (2)In situランゲンドルフ灌流心システムの開発 [目的]ドナー心への迷走神経刺激を可能にするためには,心臓摘出前に灌流心を自律神経支配下で操作するため動物モデルを開発した。 [方法]ラットを麻酔下で頸部右迷走神経を露出させ直ちに刺激を開始する。開胸後,大動脈・肺動脈を確保し,大動脈よりKH bufferを灌流しながらランゲンドルフ標本にした。その後,30分間の全虚血と2時間の再潅流を行い,迷走神経刺激の虚血再潅流傷害に与える影響をTTC染色で評価した。 [結果]迷走神経刺激により,虚血再潅流傷害の範囲が,4割程度抑制された。この結果は,迷走神経刺激により,移植ドナー心の保存時間を延長することができる可能性を示している。
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