Research Abstract |
近交系マウスであるDBA/2J系マウス(DBA/2J)とA/J系マウス(A/J)の頚動脈小体(CB)およびそれを形成するglomus細胞には明白な形態学的個体差が存在し,その個体差が低酸素性呼吸応答の個体差の要因となっていることをこれまでに明らかにし,その差には遺伝学的要因が存在することを証明してきた。本年度の研究において,CBの遺伝学的個体差の存在を確固たるものにするために,DBA/2JとA/Jを交配作成したF1マウス(F1)における形態学的特徴を調べ,その親であるDBA/2JとA/Jとその特徴について比較した。その結果,以下のことが明らかになった。1)F1のCBの大きさはDBA/2JとA/Jの中間であった,2)F1のCBの形は他の組織との境界が不明瞭で,A/Jに類似していた,3)F1のCBにおけるglomus細胞の形態は,DBA/2Jのそれに類似していた,4)F1のCBでは大きくて丸い核を持つ特徴的なglomus細胞が多数観察された,6)特徴的なglomus細胞の存在率を表すTyrosine Hydroxylase陽性率はDBA/2Jとほぼ同様であった,5)F1のCBにおけるドパミン陽性神経細胞の生存に重要な役割をしているglial cell-derived neurotrophic factor (GDNF)のmRNAの発現率は,DBA/2JとA/Jの中間であった,6)多数のglmous細胞が集合・密着しCBを形成するのに必要なsheath細胞の発達に重要な役割をしているglial fibrillary acidic proteinのmRNAは,DBA/2J,A/J,F1全てのマウスにおいて強く発現し,差は認められなかった。以上の結果から,DBA/2JとA/JのCBの形態学的特徴の差における遺伝的要因の存在を強く示唆し,複数の遺伝的要素が複雑に関連しCBの形態,CBの大きさ,glomus細胞の形態,glomus細胞の数を決定していることが判った。そして,遺伝的個体差の存在にはGDNFが強く関わっていることが推測された。この研究結果は,頚動脈小体の遺伝的個体差の存在を確固として証明するもので,International Society of Arterial Chemoreceptors 2005 meetingにおいて高い評価を受けて,Advances in Experimental Medicine and Biolology誌(2006年)に掲載された。
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