| Research Abstract |
接着性レジンと象牙質との接着において,長期の水中浸漬を行った場合,接着強度は低下することが知られている.この理由として接着界面の象牙質コラーゲンの劣化が原因と考えられている.切削された象牙質表層に存在するスメア層と有機質コラーゲンをリン酸に続く次亜塩素酸ナトリウム処理(PA/AD)によって取り除けば,象牙質の石灰質部分とレジンの直接的な結合が期待できる.しかし,PA/AD処理だけでは,4-META/MMA-TBBレジンを接着するのは困難であった.本研究は,これを解決するためにPA/AD処理の後,アスコルビン酸と塩化第二鉄を含有する試作表面処理材を適用した場合の4-META/MMA-TBBレジンと象牙質の接着耐久性について検討することを目的とした.方法は、K-エッチャント(PA,クラレメディカル),ADゲル(AD,クラレメディカル),10wt%アスコルビン酸と5wt%の塩化第二鉄の水溶液(As-Fe)を用いた.抜歯後,咬合面を平坦に露出させたヒト第三大臼歯の象牙質面を,PA/AD処理に続いてAs-Feを用いて表面処理した後,Super-Bond C&B(サンメディカル)の4-META/MMA-TBBレジンを用いてレジン棒と接着した(PA/AD/As-Fe).コントロールとして,10w%クエン酸と3w%塩化第二鉄を含有する表面処理材を用いる市販の接着システム[Super-Bond C&B (Super-Bond)]を用いた.接着した試料を30分間室温に放置し,37℃の水中に24時間浸漬した後,1/3の試料は,断面の一辺が1mmの正方形になるように棒状に切断した.試料をジグに固定し,crosshead speed 1mm/minの速さで引張り荷重を加え,破断時の値から微小引張り強さを求めた.また,残る試料は,12ヶ月と18ヶ月の水中浸漬後,同様に引張り試験を行った.全てのデータは,分散分析と多重比較(P<0.05)を用いて統計処理した.その結果、微小引張り強さは,全ての浸漬期間において,PA/AD/As-FeがSuper-Bondのグループよりも統計的に有意に高い値を示した.また,PA/AD/As-Feは,12ヶ月後および18ヶ月後の長期水中浸漬後も接着強度の低下を示さなかったが,Super-Bondでは,0ヶ月に比べて有意な低下が認められた.以上の結果から、PA/AD処理後,リン酸エステル系のレジンセメントを用いた場合,50,000回の熱サイクル後も接着強度が低下しないことはすでに報告されている.そして,本結果からは,カルボン酸系の4-META/MMA-TBBレジンにおいても,PA/AD処理した後にAs-Fe処理を施すことによって,長期水中浸漬後の接着強度も低下しないことが示された.これは,有機質コラーゲンが次亜塩素酸ナトリウムによって除去されることによって,コラーゲンの加水分解に起因する接着の劣化が生じにくくなること,アスコルビン酸が次亜塩素酸ナトリウムを中和すること,塩化第二鉄がレジンの重合を促進することなどが関与していると推察される.
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