2017 Fiscal Year Annual Research Report
Heidegger and the Kyoto School: a Mathematico-Metaphysical Study
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17F17004
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
出口 康夫 京都大学, 文学研究科, 教授 (20314073)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
CASATI FILIPPO 京都大学, 文学研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 京都学派の哲学 / 後期ハイデガー哲学 / 真矛盾主義 / パラコンシスタント論理 / 根拠づけ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、特別研究員は、三本の査読付論文を公刊し、五回の研究発表を行なった。査読付き論文の一つ Nothingness, Meinongianism and inconsistent mereology は、京都学派の分析形而上学的解釈を念頭におきつつ、現代の分析形而上学のトピック(マイノング主義・メレオロジー)を拡張する試みである。同論文は、哲学の分野で国際的に評価の高い雑誌 Synthese に掲載された。他の論文二本も同様に、京都学派解釈を念頭におき、現代形而上学やそれと結びついた非古典論理の概念装置を拡張する試みである。 一方、研究発表のうち、 Heidegger and the Contradiction of Being とHow to Quine Meinong and Heidegger は、京都学派の現代形而上学的解釈の基礎となる、特別研究員によるハイデガーの現代形而上学的解釈の研究成果である。また 他の三回の研究発表は、直接、本研究のテーマに関わるものであり、そこでは研究員がハイデッガー解釈で培ってきた方法論や概念装置を、京都学派などの日本哲学解釈に拡張する試みがなされた。 後三者の発表は、いずれも日本国内で開催された研究会・コンファランスで発表されたものであり、聴衆の中には日本哲学に通じた研究者も多数含まれていた。特別研究員は、これらの研究者との議論を通じて、今後の研究の指針となる有益なフィードバックを多数得ることができた。 以上のように、本年度は、初年度でありながら、すでに今後の研究方針の方向性を決める研究成果が発表されたことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度、特別研究員と受入研究者は、次の二つのテーマに即して研究を進めた。一つは現代形而上学や非古典論理の概念装置のうち、京都学派の解釈に際して有望と思えるものを取り上げ、それを洗練かつ拡張することで、京都学派解釈の地ならしを行なうという作業である。今ひとつは、京都学派のテキストをその思想的背景も含めて精読する作業である。 前者の研究においては、マイノング的対象、Grounding という概念装置が取り上げられ、それらをConsistentなものからParaconsistentなものへと拡張する試みがなされた。Consistent なマイノング的対象や Grounding は、標準的な西洋思想の研究においては、有力な解釈のツールとなりうるが、後期ハイデガーや道元ないし京都学派といった、一見すると矛盾にコミットしているように思われる「異端的」な思想には適用できない。このような場合、「異端思想」を、「非異端化・標準化」するという方向性がこれまでの現代哲学的・論理学的解釈では採用されてきた。本研究では、あえてこのような方向性はとらず、「異端的」思想をその「異端性」を保持したまま解釈しうるように、現代の概念装置自体を拡張するという方針が採用された。 京都学派やその思想的コンテキストの読解に際しては、まず京都学派の大きな特徴づけが試みられ、それに即して、京都学派のバックボーンとなる思想系譜を構築するという方針がとられた。その際、本研究は、京都学派の哲学を、類比的な近代アジア哲学、具体的には、中国の現代新儒家、インドの近現代インド哲学と比較することで、前者の特徴を「身体性の強調」と「矛盾へのコミットメント」という二点に集約する視座を得た。その上で、これら二つの特徴を兼ね備えた道元思想に着目し、道元から西田幾多郎、さらには田邊・西谷にいたる思想系譜を研究対象として同定するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策も主として次の二点に絞られる。 第一に、今年度の京都学派テキスト精読の結果浮かび上がってきた、その大きな特徴と思想系譜を踏まえ、京都学派の哲学を、身体性と、「矛盾」として概念的に表現された超二項対立性(不二性)を備えた「真の自己」に関する哲学として読み解くという作業である。このように京都学派を、身体的・不二的な「真なる自己」と見なす解釈と類似する先行研究としては湯浅泰雄の業績がある。次年度は、この湯浅の京都学派解釈をも参照しながら、本研究の京都学者解釈の骨格を定める作業を行なう予定である。 研究推進方策の第二は、このように解釈された京都学派の哲学、特に西谷啓治の思想に対して、本年度で拡張しておいた現代分析形而上学・非古典論理の概念装置を適用し、西谷哲学をパラコンシスタントな Grounding Theory として読み解く解釈を提案することである。この解釈においては、主として『宗教とは何か』で展開された西谷の中期思想が主たるテキストとして採用される一方、この中期思想に先立つ、戦時期西谷の国家論にも着目する予定である。西谷の国家論は、『宗教とは何か』に結実する「実在の三層構造」分析が、既に登場しているという点で、後者の重要な先駆形態と見なしうるのと同時に、西谷によるハイデガーの下での留学体験の直後に発表された著作である点でも注目に値する。『宗教とは何か』で展開された西谷の中期思想を、戦時期の国家論に遡って検討することで、従来指摘された諸点には回収されない、西谷に対するハイデガーの更なる影響を明らかにすることが目指されるのである。
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Research Products
(8 results)