2018 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本の「中東」に対する認識と外交政策--資源保障論を超えて--
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17F17011
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
松浦 正孝 立教大学, 法学部, 教授 (20222292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
LEVENT SINAN 立教大学, 法学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-10-13 – 2020-03-31
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Keywords | 中東認識 / 民族系 / 民間経済人 / 石油資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後日本の「中東」地域に対する認識を検討し、それがどのように対「中東」外交に影響を与えたかを分析する。その際、戦後日本外交の本流とされた吉田路線ではなく、傍流とされてきた岸信介、中曽根康弘、三木武夫、中谷武世らに焦点を当て、『民族と政治』『季刊アラブ』や、外交史料館・日本アラブ協会・アジア経済研究所・経団連などの資料を検討し、関係者の聞き取りを行ってきた。当初は、「中東」の意味内容が、資源保障論に基づく産油国という認識から、民族・宗教・価値観や安全保障・戦略などを重視した「ユーラシア」という地域概念(戦前の地域認識の再生)へと次第に変化したという仮説を立てた。 2018年度には、外交史料館・国会図書館・東大近代日本法政史料センターなどを中心とする史料渉猟の他、中東関係の大使経験者、通産省などの官僚、石油・銀行関係者、政治家やご遺族などへのインタビューを積極的に行った。また、東洋大学や立教大学、若手日本外交史研究者の研究会などで仮説を報告した。すると、そうする中で、「民族系資本」という言葉に示されるように、資源保障論が、戦前から連続する日本にとっての民族的アイデンティティやナショナリズムと、対立するのではなく密接に関わることに気づいた。 また、日本の中東政策においては結局石油資源の問題が最重要であり、その分析においては、外務省の公式外交ルートではなく、メジャーと対立し「民族系資本」による石油資源確保を模索した民間経済人に着目すべきこともわかった。彼ら個人の内面及び彼らの関係性において、天皇崇敬、仏教などの宗教信仰、保守系政治家との関係や戦前からの歴史的連続性が重要であることにも気づいた。この「民族系」という概念により、戦後日本の中東政策に新たな切り口を提示することができるという確信を持てたことが、最大の成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、戦前のユーラシア主義をめぐる外交史・軍事史の専門家であった分担者が、戦後日本の対中東外交・対中東認識という全く新しいテーマに挑戦するものであった。それは、トルコを拠点に活躍する外国人研究者が外国としての日本を理解し研究し、さらに将来におけるトルコ、さらには海外における日本研究者として大成するための志ある挑戦である。その意味で本研究は当初より、設定したテーマにおける成果の完成ではなく、帰国後も続く研究の基礎と足掛かりとなる中核テーゼを見つけ、日本でしか収集できない原資料やインタビューなどの材料をできる限り集めることに目標を置いていた。 その意味で、何人もの外交関係者・学界関係者などのご厚意とご紹介に支えられ、多くの関係者から直接お話を伺って記録に残し、いくつかの貴重な原資料を発見し、多くの外交史料や政治経済的・思想的な背景を知るための文献・史料を集めることができた。 何より大切なことは、資源保障論が、戦前から連続する日本にとっての民族的アイデンティティやナショナリズムと、対立するのではなく密接に関わることに気づき、当初立てた仮説を否定して発展的なテーゼを獲得することができたことである。その意味で、石油資源に関する「民族系資本」という極めて興味深い概念の意味に着目したことは、研究の中核となる手がかりを手に入れたことを意味する。 研究分担者はそこから、「民族系資本」をめぐる民間のキーパースンの多くが、戦前のパーソナル・ヒストリーと密接に関わる宗教的背景や文化的背景、保守系政治家らとの関係を共有していたことにも着目し、それを深く掘り下げ始めている。貴重なインタビューや発見した資料を学界に紹介する活字成果も残すことができた。今後は、獲得したテーゼを理論化し実証する作業を続け、帰国後その成果を発表することが期待されるが、それは当初の期待を遥かに上回ったと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、二年間という短い期間に着手された野心的なプロジェクトであり、上述のように重要なテーゼと材料を手に入れることができたとは言え、帰国と研究期間の終了まで残すところ僅か3か月余りである。最大の課題は、時間との闘いである。 このため、既に行った30数件を超えるインタビューに加え複数のインタビューを行う他は、これまでインテンシブに集積して来た原資料やインタビュー、資料文献などを整理・分析する。外交史料館や国会図書館、立教大学・早稲田大学の図書館などを中心に、「民族系資本」などの新たに得られた重要論点や、新たに発掘した経済人や民間の活動家などについて、深く調査することを中心的な活動とする。 本研究の期間中に刊行して来た論考や資料紹介に加え、本年度は査読付き学会誌にこれまでの研究の一部を投稿する。それらを含む将来のモノグラフ刊行に向けて、章立て構成などを作成した上、すでに書き溜めつつある章のバージョンアップや手つかずの章の材料整理を含め、将来における全体的な研究のまとめを目指す。すでに草稿を書いた部分については、近い将来の投稿などに備えて、日本語 ・英語のネイティヴ・チェックを依頼する。 恵まれた2年間の研究専念の期間が終わって母国の大学の職に戻ると、日本外交に関する研究から距離的に遠ざかると共に、時間的にも研究の時間が少なくなってしまうことが予想される。そのため、日本の外交史・経済史・産業史・文化史関係の図書をさらに購入するなど、本研究を通じて行ってきた貴重な資料及び書籍の収集を充実させる。またそれと共に、今後の日本とトルコの学術交流発展のために、研究会などに出席して学術交流を深め、これまで築いてきた濃密なネットワークを確かなものとする努力をする。
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Research Products
(4 results)