2018 Fiscal Year Annual Research Report
Study of charged interfaces by time-resolved heterodyne-detected sum-frequency generation spectroscopy
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17F17036
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田原 太平 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (60217164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SUNG WOONGMO 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-10-13 – 2020-03-31
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Keywords | 界面 / 水 / 非線形分光 / 超高速分光 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
界面の水の振動ダイナミクス研究においてOH伸縮振動の振動励起状態の寿命(T1時間)は最も基本的な量であり、これまでに幾つかの値が報告されている。しかしこれらは和周波光の強度のみを測定する従来のホモダイン法に基づく時間分解測定によって求められたものであり、またそのほとんどは振動数一点での測定によって得られた値であった。最近の我々の研究によって、OH伸縮振動バンドは振動励起状態の緩和のみならずスペクトル拡散や熱化信号など様々な緩和過程を反映した時間変化を示すことが明らかになり、過去に報告されたT1時間の値には信頼性がないことが判明した。そこで赤外パルス励起による振動励起とともに現れる振動励起状態のOH伸縮バンドの時間変化を、信号光の位相を決定できるヘテロダイン検出振動和周波発生(HD-VSFG)分光の時間分解想定を行って直接観測してOH伸縮振動の信頼できるT1時間の測定を開始した。これと並行してTR-HD-VSFG分光法の発展である、二次元ヘテロダイン検出振動和周波発生(2D HD-VSFG)分光の新しい装置開発に取り組んだ。われわれは世界で初めて水界面に対する2D HD-VSFG測定を実現しているが、これまではバンドパスフィルターを用いて狭帯域化させたフェムト秒赤外パルスを振動励起に用いていたため、極限的な時間分解能と振動励起分解能を達成することができなかった。そこで、測定の分解能を大きく向上させ、さらに長時間信号積算によって高い検出感度を実現するため、2つの広帯域のフェムト秒赤外パルスの干渉を利用して振動励起する干渉型2D HD-VSFGの装置を開発した。加えて、英国インペリアルカレッジのBakulin博士の研究グループとの共同研究で光電材料として大変注目を集めているペロブスカイトの表面構造をHD-VSFG分光を用いて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
信頼性のあるOH伸縮振動のT1状態を水界面で決めるためには、多様な時間変化を示す定常状態のOH伸縮バンドが現れない低波数領域において振動励起状態に由来する信号のみを測定すれば良いはずだ、というシンプルな発想に基づいてHD-VSFGの時間分解測定を行い、これに成功したことは大きな成果であった。測定がすでに終了した振動数領域においては、以前の報告で主張されていたような奇異な振動数依存性は観測されず、われわれの正確なデータを元にして、改めて界面とバルクの水の振動ダイナミクスがどのように異なるのかを議論できる見込みとなったことは大きな意味がある。さらに、干渉型の2D HD-VSFG分光装置の製作を行い、これの完成の目処がたったが、この新しい装置を用いると時間分解能と振動励起分解能の両方を極限的に向上させることが出来、また実験条件を返ることなく長時間の信号積算ができるためS/Nも大きく向上させることができる。これで世界をさらに大きくリードする究極の振動ダイナミクス計測を界面で実現するための準備が整った。これらの成果は本研究費を申請した際に想定したものを遙かに超えるものであり、外国人特別研究員のSung氏の高い研究能力と粘り強さ、さらに彼が研究期間中に大きく成長したことによって得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度はSUNG氏の外国人特別研究員の最後の年に当たるので、現在進行している研究をまとめながら、論文化を行う。 具体的には、まず、界面の水のOH伸縮振動のT1時間の決定に関して、低波数側の水素結合した界面水のT1時間決定に加えて、高波数領域にある空気側に突き出したフリーOHのT1時間の精度の高い測定を行う。これによって空気/水界面のOH伸縮振動のT1時間を全振動領域で決定し、界面の水の振動緩和とその機構に関して包括的な理解を得て論文を執筆する。 また新しい干渉型の二次元ヘテロダイン検出和周波発生(2D HD-VSFG)分光装置を完成させ、様々な界面でこれを用いた実験ができるようにする。ガラス基板に固定したアルキル鎖分子のCH伸縮領域には幅の狭いCH伸縮バンドが複数存在しており、複雑なスペクトルを示す。そこで完成させた装置を用いて、これに対して2D HD-VSFG測定を行い、混み合った界面スペクトルをダイナミクスの観点からどのように分離でき、さらにその振動緩和の機構が明らかにできるのかを調べる。これによって開発した2つの広帯域フェムト秒赤外パルスの干渉を利用して振動励起を行う干渉型2D HD-VSFG装置の性能を評価し、これを論文の形にまとめる。 さらに、英国インペリアルカレッジのBakulin博士の研究グループとの共同で行ったHD-VSFG分光によるペロブスカイトの表面構造の研究成果を論文発表する。
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