2017 Fiscal Year Annual Research Report
マイコライザに感染した植物を用いたヒ素の除去と健康被害のリスク評価
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17F17076
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SARKAR ANIMESH 埼玉大学, 理工学研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | マイコライザ / ヒ素 / ファイトレメディエーション / 土壌浄化 / バングラデシュ / 活性酸素 / 過酸化水素 / 重金属汚染 |
Outline of Annual Research Achievements |
バングラデシュは、土壌中のヒ素濃度が高く、住民の生活の上で極めて大きな問題を引き起こしている。ところが、国力、住民の生活レベル等、全ての点で、過大な投資を伴う土壌対策を行うことは難しい。そうした中、植物を利用してヒ素を取り除く手法であるファイトレメディエーションは、安価でかつ持続的な方法として、今後、大きな利用価値が認められる。ところが、ファイトレメディエーションに利用しようとする植物自体、ヒ素に対する耐性は必ずしも高くなく、十分な効果が期待できるか否かについては問題が残る。そのための一つの方法として、植物を、植物自体の活性化を高めるアーバスキュラ―マイコライザに感染させることによって、ヒ素に対する耐性を高めることが考えられる。そうした背景の下、本共同研究では、比較的耐性が高いと考えられるイネ科の植物を用い、ヒ素の含まれる土壌中で、マイコライザの有無によるヒ素の吸収能を測定することを予定していた。ところが、土壌化学を長年にわたって研究し、共同で研究を進めることになっていたHarn Rashid助教が退職したこと、植物体中の過酸化水素濃度で、植物に掛かる環境ストレス強度の測定が可能であることが明らかになったこと、さらに、Animesh Sarkar氏の来日が遅れ、実際の野外の観測ができなくなってしまったこと等の理由から、当初の研究の方向を多少変化させ、土壌のヒ素濃度に焦点を当てるのではなく、ヒ素を吸収することで、植物自体がどのような強度のストレスを受けるかといったことを直接的に測定することを考えた。そのため、マイコライザへの感染がストレス強度に影響するかについての過去の研究の十分なレビューが必要である。平成29年度は主にそれに費やすことを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は、まず、バングラデシュにおけるヒ素汚染の実態を把握した。そのため、Animesh Sarkar氏の来日が遅れ、当初、平成29年度に、温室においてマイコライザに感染させた植物と感染させていない植物との間で、ヒ素の吸収能に生ずる差を把握すること、野外で採取した植物に対するマイコライザへの感染の状況を把握することを予定していたものの、時期的にこうした作業が難しくなった。また、こうした研究の専門家で共同で作業を行うことを予定してたHarun Rashid助教が退職せざるを得なくなり、効率的にこうした作業を行うことが難しくなった。他方、重金属を含む、植物の環境から受けるストレス強度が、植物体内の過酸化水素濃度を測定することで、極めて精度よく評価できることが明らかになった。そのため、当初予定していた、土壌のヒ素濃度(全ヒ素量)を精度よく測定する必要がなくなり、植物体内の過酸化水素濃度の測定だけで、その時の植物の状態を定量的に把握することが可能になると考えられる。この方法を利用することで、植物のヒ素に対する耐性の簡単かつ定量的な評価が可能となり、ヒ素に対する耐性とマイコライザの感染度との関係も容易に評価することができる。こうしたことから、研究方針を変え、マイコライザの感染の有無と植物体内のヒ素濃度との関係を求めることにした。これまで、重金属の存在下で、過酸化水素を含む活性酸素量の増加に対する研究は多数存在する。しかし、過酸化水素濃度として、ストレス強度を見積もった研究はほとんど存在しないと考えられるが、現在、その背景にある研究のレビューを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本共同研究では、当初、土壌のヒ素濃度と植物体内のヒ素濃度、更に、植物の生長量との関係から、植物のヒ素に対する耐性を求めることを予定していた。しかし、これには、植物の生長量を測定しなければならないために、最低6か月程度の期間を使って生長実験を行う必要がある。そのため、条件を変えた実験を多数行うことは不可能であるという問題を抱えていた。しかし、今回開発した、植物体内の活性酸素濃度を測定することで、植物が環境から受けるストレスを定量的な評価するシステムでは、短期間で植物の状態の評価ができ、種々に条件を変えた実験も可能になり、さらに、現地における植物の状態の把握も可能である。こうした理由から、本共同研究では、今後、この方法を用いることとする。ただし、重金属ストレスによる活性酸素の増加の有無に関する研究はこれまで多数存在するものの、過酸化水素量のみで定量的に把握することを試みた研究はこれまで存在していないと考えられる。そのため、まず、このシステムによる基本特性を明らかにする必要がある。具体的には、多少時間をかけた生長実験を行い、生長量の他に、クロロフィル量や生長ホルモンの量を測定し、かつ、過酸化水素量の測定を同時に行うことで、過酸化水素量との相関の把握、更に、過酸化水素量を低減させるために植物体内で生ずる防御反応である、カタラーゼやアスコルビン酸ペルオキダーゼなどの酵素による活性との関係を測定する。更に、その後、ヒ素存在下で様々な条件での実験を行い、ストレス強度の増加について実験を進めることになる。
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