2018 Fiscal Year Annual Research Report
翻訳と東アジア――近代日本におけるPhilosophyの翻訳と植民地朝鮮への伝播
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17F17302
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 希史 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80235077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HEO JIHYANG 東京大学, 人文社会系研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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Keywords | 京城帝国大学 / 哲学科 / 漢字翻訳語 |
Outline of Annual Research Achievements |
30年度の研究実績としては、まず、研究分担者によって、①「京城帝国大学」研究チームとの共同作業および安倍能成に関する研究、②京城帝国大学予科教授・横山將三朗に関する研究が行われ、③西周と「哲学」概念の翻訳に関する論文「西周の「生性発蘊」」が作成された。また、④井上哲次郎他『哲学字彙』に関する論文についても修正改訂作業が行なわれた(2019年7月刊行予定)。 さらに、齋藤希史『漢字世界の地平』(新潮社、2014年)をハングルに翻訳して韓国で出版することができた(許智香訳『漢字圏の成立』グルハンアリ、 2018年12月)。この翻訳は韓国の『毎日経済』『ハンギョレ新聞』などにも書評が掲載された。 特筆すべき実績として、上記②の研究については、許智香「京城帝国大学予科教授・横山將三朗について」が『朝鮮史研究会論文集』第57集に掲載されることになった(2019年10月予定)。京城帝国大学予科教授・横山將三朗については、京城帝大予科自体が研究対象となったことが少なく、なかでも文・理科共通必須科目「哲学概論」については、担当教授すらこれまで言及されたことがなかった。研究分担者は、横山將三朗の実家(三重県松坂市所在)を訪ね、横山將三朗の甥子に直接会ってお話をうかがうなどして、1924年から1945年11月終戦まで京城にいた倫理学者・横山の生と学問を再現した。フィールドワーク中にはこれまで現存物として知られていなかった『昭和7年度・京城帝国大学予科学友会・会員名簿』や1945年終戦の際に朝鮮総督府が発行した「特別輸送乗船証明書」など、貴重な史料が発掘された。また、横山が1920年代から活動しはじめた小田省吾や鮎貝房之進らの「韓国研究会」と関係を持ちながら、朝鮮半島で考古学的活動を続けていた点、その具体的な発掘内容の詳細とかれの倫理学との関係を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一に、昨年度9月にソウル漢陽大学校で行われた学術シンポジウム「京城帝国大学研究」に研究分担者が参加し、京城帝国大学の新進研究者と交流することができ、それによる成果を今年度に執筆した論文などに反映することができた。京城帝国大学予科教授・横山將三朗に関する資料の発掘ができたことも、大きな成果である。 また、代表者が主催する東京大学大学院の東アジア人文学のゼミおよび研究会における討論によって、研究分担者の博士論文の出版に向けた修正作業を大きく進展させることができた。とくに、2019年3月に行われた東京大学大学院の東アジア人文学のゼミでは、「西周の「生性発蘊」」に関する内容を発表し、その場で得た質問とコメントによって、有益な修正を行なうことができた。 以上のように、資料調査の成果が挙がったこと、学術的なネットワークを生かしながら研究を進められていることが、本研究の進展に大きく寄与している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、前年度の博論出版作業を引き続き行いながら、その第二部「京城帝国大学における哲学という学知」のなかで論じた安倍能成(1883~1966)にみられる「西洋古典主義」に焦点をあて、近代の漢字圏において「古典」という言葉が指示するものがどう発生し、西洋古代哲学研究者がそれをどう支えたかについて検討する。そこには当然ながら、日本の研究者のみならず、かれらに学んだ植民地朝鮮の哲学研究者も含まれる。 なかでも、京城帝国大学哲学科を1933年に卒業し、安倍能成の教え子でもあった朴致祐(1909~1949)のアリストテレス研究を取りあげ、かれの研究の下敷きとなった文献を調査し、安倍の講義緑に挙げられている西洋古代哲学の関連文献と比較・検討する。さらに三木清の影響も視野に入れて、朴の「危機の哲学」、「状況性」などの思想から、具体的な検討を進める。
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Research Products
(3 results)