2017 Fiscal Year Annual Research Report
二枚貝殻の地球化学組成を用いた東京湾の沿岸貧酸素水塊の遡及的モニタリング
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17F17333
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐野 有司 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50162524)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ZHAO LIQIANG 東京大学, 大気海洋研究所, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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Keywords | ムラサキイガイ / 貧酸素 / 環境モニタリング / 陸源物質流入 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は大槌湾の複数箇所から季節ごとに採取されたムラサキイガイの筋肉・殻皮および海藻の炭素窒素安定同位体組成の分析を実施した.その結果,湾内で淡水の影響を受けやすい湾奥域から採取されたムラサキイガイの炭素同位体組成がそれ以外の場所から採取された個体と比較して低い組成を示し,さらに淡水の影響の強い夏期のサンプルでその傾向が顕著であることが明らかとなった.これは筋肉の炭素同位体比が陸源物質流入の良い指標となることを示している.また,窒素同位体比組成についても地理的な勾配や季節周期的な変動パターンが見られたが,炭素同位体比ほど顕著な傾向は見られなかった. また,ムラサキイガイの殻皮の安定同位体組成を分析するための基礎実験を行いプロトコルを確立した.特に炭素同位体比については微量に混入してしまう炭酸塩殻の影響を強く受けることが明らかとなり,塩酸で脱灰処理をすることで殻皮の安定同位体組成が得られることが明らかとなった.殻皮と筋肉の炭素・窒素安定同位体組成については非常に良い直線関係を示すことが明らかとなった.殻皮は空の表面に付着している有機物であり,二枚貝殻同様に付加成長をする.このことは,殻皮は筋肉の同位体組成の経時変遷を時系列で保存していることを示しており,殻皮を縁辺部から蝶番部にかけて付加成長方向に遡って分析することで分析することで陸源物質流入の経時変遷を復元可能であることを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
来日後しばらくは様々な手続きに時間を費やす必要があり,研究を本格的に開始できたのは1ヶ月以上経った後であったが,短期間で非常に効率的に研究成果が得られており,研究は順調に進んでいるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は殻皮を用いた過去の物質循環の復元,および殻の微量元素組成の分析による過去の貧酸素水塊履歴の復元手法を確立する.大槌湾と東京湾から採取され保管されているムラサキイガイについて軟体部・殻皮の炭素・窒素・硫黄同位体比の分析を実施する.殻に含まれる微量元素組成についてレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法による微量元素組成分析および酸素炭素安定同位体比分析を行う.また,基礎データとなる環境水の化学・同位体組成の分析も行う.それらにより得られたデータの共変化と環境パラメータについて解析することで,ムラサキイガイ殻の貧酸素水塊の遡及的モニタリング手法の確立を目指す.
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