2017 Fiscal Year Annual Research Report
水域におけるアオコ制御のための水生植物の多感作用に関する基礎的研究
Project/Area Number |
17F17724
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
UDDIN Md Nazim 埼玉大学, 理工学研究科, 外国人特別研究員
|
Project Period (FY) |
2017-11-10 – 2019-03-31
|
Keywords | 植物プランクトン / アレロパシー / 沈水植物 / 排他的安定状態 / 環境ストレス / 活性酸素 / 過酸化水素 / 浅い湖沼 |
Outline of Annual Research Achievements |
浅い湖沼においては、植物プランクトンと沈水植物との間には明確な競争関係が存在することから、沈水植物を増加させることで、植物プランクトン量を減少させることが可能である。排他的安定状態の仮説とよばれる現象である。これには、植物を隠れ家とすることで動物プランクトンの増殖が可能になること、植物プランクトンの増殖によって透明度が低下、沈水植物の増殖が抑えられること、植物プランクトン、沈水植物共に、多くの種がアレロパシーを有し、互いに相手の生長を抑える物質を発生させること、更には、沈水植物種のいくつかは二酸化炭素が欠乏する状態、また、水中に大量にカルシウムイオンが損存在する中で、炭酸水素イオンを光合成に利用し、植物体に炭酸カルシウムを沈着させる、さらに、その際に水中のリンを取り込むことで水中のリン濃度を低下させるなどの仕組みが存在すると考えられる。しかし、そうした際に、これまで、植物体もしくは植物プランクトン自体にどの程度のストレスがかかっているかを測定する手段がなく、実際にどのような要因が効いているかについては不明であった。数か月に及ぶ生長実験を行うことで、全体としてのストレスの増減を見積もる他に手段が存在しなかった。こうした背景の下、本共同研究では、まず、植物プランクトン、沈水植物が環境から受けるストレス強度を評価する指標の開発を行った。具体的には、ストレスを受けた場合に発生する活性酸素のうち、過酸化水素はストレス強度と極めて明確な関係を示すことから、活性酸素濃度を測定することで、これが可能になるという結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Nazim Uddin氏の来日が大幅に遅れ、11月になったため、平成29年度の研究は当初の予定を変更し、今後研究を進めていくために必要となる手法の開発を行った。具体的には以下のような手法である。生物的、非生物的を問わず環境ストレス下では植物体内には活性酸素が生成され、タンパク質、脂質、DNA等を破壊するため、植物の生長は抑制され、場合によれば枯死に至る。活性酸素の多くは極めて不安定であり、計測は難しいものの、その中で過酸化水素は比較的安定であり、計測も簡単である。そうしたことから、まず初めに、様々な非生物的な環境ストレスを異なる強度でかけ、その際に植物体内に発生する過酸化水素量を測定した。その結果、ストレス強度と過酸化水素濃度との間に、極めて一義的な関係が存在することが確認された。さらに、過酸化水素濃度と生長量、クロロフィル濃度等との間に負の相関が存在することが確認された。次に、植物プランクトンに対し、同様な実験を行ったところ、ストレス強度と過酸化水素濃度との間に負の相関が存在することが確認され、また、クロロフィル量の低減、細胞数の低減が得られ、増殖が著しく抑制されていることが明らかになった。さらに、複数種の沈水植物を単一種もしくは複数種で培養し、植物体内に含まれる過酸化水素量を測定した。その結果、種によっては単一種で栽培した方が過酸化水素量が増加(ストレスが増加)、また、種によっては単一種と複数種での栽培との間に差がみられなかった(ストレスに変化なし)。以上の結果より、アレロパシーに対しても利用可能であることが示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では開発した、沈水植物や植物プランクトンにかかる環境ストレスを過酸化水素量で評価する手法は、測定が比較的簡単なこと、定量的な評価が可能であること、異なる環境ストレスによる影響をストレスの種類ごとに評価できる可能性があること、過酸化水素量という一義的定量化で可能にしていることから、枯死に至る過酸化水素量を把握できること等、様々な長所があり、将来性も極めて高い手法といえる。こうしたことから、平成30年度は、この手法の開発にも焦点をあてた研究を行う。具体的には、異なる複数の非生物的環境ストレスに対し、それぞれのストレスごとに強度を変えた中で、沈水植物もしくは植物プランクトンの培養実験を行うことで、それぞれのストレスに対し、ストレス強度と過酸化水素量との関係把握を行う、次に、複数のストレスを掛けた下で過酸化水素量を測定、個々のストレスによる量の和として得られる量と比較する。これにより、ストレスごとの影響把握の可能性を求める。予測としては、環境ストレスによる活性酸素の生成は、細胞内の異なる組織において生じており、組織が異なれば、他のストレスによる影響とも関係が希薄になることから十分な可能性があると考えられる。生物的なストレスに対しては、これまで病原菌に対する影響が主に調べられてきた。しかし、本課題で重要になるのはむしろアレロパシーであることから、沈水植物と植物プランクトンとが共存する中で培養実験を行うことで、この影響を明らかにしていく。
|