2017 Fiscal Year Annual Research Report
大阪市大正区の沖縄系コミュニティーの歴史、アート、アイデンティティーの研究
Project/Area Number |
17F17743
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
千葉 泉 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (20217243)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
IKEHARA ARIKO 大阪大学, 人間科学研究科, 外国人特別研究員
|
Project Period (FY) |
2017-10-13 – 2019-03-31
|
Keywords | スキマショー / サードスペース / 沖縄 / 大正区 / お笑い / 芝居 / パフォーマンスアート / クロスロード |
Outline of Annual Research Achievements |
研究場所は、関西沖縄文庫で平成29年の9月からフィールドワークを行なっています。今までの調査活動はインタビュー・聞き取り(大阪の沖縄人、関西沖縄文庫に関わる沖縄人を対象), アーカイブ、芝居、お笑い、 参加観察、コラボレーション, イベント記録(エイサー大会、アジア学院留学生研究、宝塚沖縄芝居ビデオ上映会、ダイバーシティパレード等)。 最初の期は月二回から四回にかけて関西沖縄文庫の資料を調べながらメンバーと交流する場を開き、11月から1月にかけて研究について勉強会を三回行いました。平成30年2月からは5月と6月のイベント企画を行い、3月に入ってから沖縄出張を踏まえて5月と6月に行われるイベントの一部のプロジェクトに関わるワークショップ、「スキマ教室」を週一回土曜日に行なっています。 スキマショーの概念は関西沖縄文庫の責任者、金城かおるさんの「隙間」というコンセプトが1985年から行われた様々な活動から生まれた思考と私の研究するサードスペース理論と重なり、大正区の沖縄コミュニティの姿勢や生活性を沖縄と大阪にある姿勢を芝居やお笑いコントで描くプチ劇として構成されました。毎年関西沖縄文庫が実行するイベントに「隙間ショー」を加えて、出来上がった作品を参加されたメンバーがイベントの隙間で演じます。大正区の歴史や今現在問題提起している差別や社会問題を取り上げて二対立に問題提起するのではなくその隙間、いわゆる違う場所・視点で物を見る、考えるという実践場が作り上げることになります。今回は初めてポップ的な新しい発想を実現して、日常的なお笑いや芝居の原点が沖縄と大阪を繋ぐ大きな可能性を与えるプロジエクトになるでしょう。そのプロジェクトは学問、芸術、と生活をクロスロードの架け橋となり理論だけではなく実際に社会に貢献できる研究方法論として活躍できることを確信しています。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
文化人類学とパフォーマンス学を組み合わせてアートと生活のクロスロード、いわゆるサードスペースで生まれる新しい発想、理論や方法論などを取り上げる(実験・構成する)」という課題が「スキマショー」という形で、以下のようなプロセスを経て実現しました。まず、場所の特質を把握するために文庫の資料を通して今までのイベントの内容・形成を調べる傍ら、現地で聞き取り調査を行いました。9月から10月に行われたイベントに参加したり、歴史的な場所を歩いたり、様々な場面を観察して場所の歴史と現状等を記述しました。その結果、11月から始めた勉強会で皆と考える交流会・ワークショップを三回実行し、貴重な情報を得ました。一つは沖縄の芝居の大正区移住者たちの生活における重要な力と役割、そしてこれまであまり見えていなかった沖縄本島とのつながりです。もう一つは大正区では「お笑い」が、現地の生活の中で「普通に存在」しており、それが沖縄本島と大正区の沖縄とをつなげる一つの「橋」であること、そしてその間にある「芝居」と「お笑い」が大正区という場所とそこに住む人々の精神・エネルギーを支えていることを認識しました。次に、沖縄の「芝居」と「お笑い」の資料を使用して3月の末から「スキマショー」というプロジェクトを始動し、毎週土曜日に「スキマ教室」と「スキマ食堂」を開催して沖縄の芝居とお笑いを勉強しながら今まで語られてこなかった日常的な歴史・物語・思い出を、「隙間」というコンセプトで、5月と6月に行うイベントの隙間に入れて地元の人々自身が、みずから作った作品を演じる予定です。スキマショーは沖縄ディアスポラの歴史、現在、未来を大正区の人々、場所とイベントを通して、グローバルに至る「沖縄」という枠を再考、議論、把握、質問し、そして考えるパフォーマンス・アート的な方法論として機能する予定です。
|
Strategy for Future Research Activity |
今回の研究期間で三つの成果が得られました。第一に、プロジェクトが「スキマショー」という形で結実し、今後、それを一つのツールとして新たな活動の展開が期待されます。同プロジェクトを通して、沖縄・大阪・日本の間に一つの架け橋を構成する可能性が開けました。最も重要なのは、「スキマショー」が現場で構成された作品がアーカイブとして残され、再現される大正区独特のツールになりうることです。当面、5月と6月に上演される企画を立てていますが、今後行われるイベントにも活用される予定です。また将来、新しい参加者の経験とアイディアが内容や形成を変化させ、発展させる可能性、柔軟性、インパクトが期待されます。第二に、新しい学術的方法論として貢献すると予想しています。2018年には研究発表二回行う予定です。一つは、7月に早稲田大学で行われる早稲田とハーバード大学が主催する “New Approaches to Asia Pacific Studies”トレーニングプログラムに参加し、今回行われた研究に関して、選定した学者や研究員と共に意見交換し、将来の研究について議論する機会を持つ予定です。この機会に、日本とアメリカをつなぐアジア太平洋地域研究の発展のため、今回の研究とこれまで重ねた経験を通して新しい方法を理論化し、その成果を論文として発表することが目的です。また11月には、アトランタ州で行われるアメリカ学会で研究について発表を企画しています。そこでは、今まで行ってきた日本・沖縄・アメリカを扱った研究と方法論について発表し、沖縄・日本を通してアメリカとアジアを両方中心にした研究の関連性と重要性を指摘する予定です。そして、平成30年末には、今回の研究に関する論文を査読付き研究誌に提出する予定です。早稲田大学のプログラムとアトランタ州での学会への参加は、論文作成のために大きな役割を果たすと考えています。
|