2019 Fiscal Year Annual Research Report
保存処理材料が共存する有機文化財の後世調査に対する微量分析システムの構築
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17H00833
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
神谷 嘉美 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 助教 (90445841)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40409462)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 南蛮漆器 / 複層構造 / 高分子 / 保存処置 / 漆芸技法 / バインダー17 / 黒色 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は資料の保存処置や後世修理が施された結果として、製作当初の有機材料にプラスして多層構造になっている有機文化財を対象としている。研究の目的は、主鎖の異なる高分子混合状態下においての各層の情報を複数取り出すためのシステムの構築にある。つまり、多種類の有機材料が混在する「複層構造の有機文化財」を少量で分析しようとした際の困難さの解消を目指し、複数の分析アプローチによる相互チェックなどを想定した調査方法の構築を試みるものである。 2019年度は、奈良国立博物館、浦添市美術館、日光東照宮などにおいて顕微鏡を用いた拡大観察や材料分析のための基礎的な査を実施し、各地では研究者らとの意見交換を行った。また複層構造によって「黒色」を表現している漆文化財の表現技術と、促進劣化試験による形状解析によって得られていた知見を整理し、2019年10月には【"漆黒”をめぐる東西の温故知新】とした一般セミナーで研究成果の公表と普及をすることができた。なお分担者は、文化財保存修復に用いられるバインダー17に対して、促進劣化試験を行った場合の前後の構造解析の研究を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの検討で興味深い知見が得られつつあった内容について、学会発表や論文発表が増えつつある一方で、取り組むべき課題のひとつのタイムスケジュールが想定よりも進められなかった。具体的には、文化財の微小な剥落片をエポキシ樹脂に埋め込んで作製したクロスセクション試料から、2018年度に新たに整備した超音波を利用したミクロ領域専用の切削システムを活用して際に、各層の微粉末サンプルをあますところなく回収する新規の手法の再検討である。これまで有効であることを見い出した回収材料は製造中止となり、購入していたものを消費していたが、将来的な分析システムに組み込めないことから全く新しい手法を検討し直す必要があったが実験は不十分であった。このため、進捗状況はやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続き、これまでの調査研究を通じて得た知見や交流に基づいて、対象とする時代や分野を固定せずに多角的な調査研究の実施を続けたい。 一方、水銀朱が用いられている剥落片試料については、顔料サイズによる比較と並行しながら同位体分析による産地推定に着手したい。また2019年度日光東照宮の協力を受け、近年の修理現場で用いられていた鉱物系顔料の一部を分析調査用として提供いただいたので、2020年度はこれらの基礎的な形質データなどの収集に努めたい。さらに2019年度あまり進行できなかった微量粉末サンプルの回収システムの再構築に取り組み、実際の剥落片でどこまで応用可能かどうか検討していきたい。
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Research Products
(12 results)