2018 Fiscal Year Annual Research Report
アデノウイルスと生体との相互作用解析とベクター開発への応用
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17H00863
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水口 裕之 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (50311387)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ウイルス / 遺伝子 / 癌 / 免疫学 / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、遺伝子治療や癌に対するウイルス療法等が、再び大きな注目を集めている。本研究では、近年新たな研究領域として開拓されてきたマイクロRNA(miRNA)や免疫誘導メカニズム、ゲノム編集の観点から、基礎に立ち返って、アデノウイルス(Ad)と宿主の攻防(ウイルスは細胞で複製に最適な環境を作ろうとするのに対し、細胞はそれを防ごうとする)を理解し、それらを遺伝子治療やワクチン、ウイルス療法、さらには基礎研究への応用に適した改良型Adベクターの開発につなげることを目的に研究を遂行した。H30年度は以下の成果を得た。 (1)Adと生体(細胞)との相互作用解析 ①Ad複製の観点からの解析: VA-RNAIIの生理機能の解明を試み、VA-RNAIIのプロセシング産物であるmivaRNAIIが、CUL4Aの発現を抑制することで、Adの増殖を促進することを明らかにした。 ②免疫誘導の観点からの解析: Adベクターを用いたHIVワクチンの臨床試験では、生体が有するヒト5型Adに対する既存抗体がワクチン効果に影響を及ぼしていることが報告されている。そこで、ヒト5型Adに対する既存抗体の主な標的であるヘキソン領域を改変したAdベクターの開発に着手した。また、異なる血清型に属するヒト35型Adからなら腫瘍溶解性Adの開発に着手した。 (2)CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターの遺伝子治療や基礎研究としての有用性評価 異なる原核生物由来のAsCpf1及びLbCpf1搭載Adベクターの作製を行った。しかしながら、Ad-AsCpf1の回収タイター(力価)は低く、さらにAd-LbCpf1は取得が不可能であった。一方で、Ad-AsCpf1は高いゲノム編集効率を示したことから、機能的かつ高タイターのCpf1発現Adベクターの作製が今後の課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)Adと生体(細胞)との相互作用解析 ①Ad複製の観点からの解析:DicerがAd増殖に必須の因子であるVA-RNA Iを切断することで、Adの増殖を負に制御していること、さらにはDicerのノックダウンにより、Ad増殖が促進されること、Dicerを介した宿主miR-27の産生がSNAP25やTXN2の発現制御を通してAd感染を阻害することを明らかにした。 ②免疫誘導の観点からの解析:Adは生体に投与すると免疫系を活性化することが知られており、これを逆に利用することで、ワクチンベクターとしても利用が期待されている。Adベクターを用いたHIVワクチンの臨床試験では、生体が有するヒト5型Adに対する既存抗体がワクチン効果に影響を及ぼしていることが報告されている。そこで、抗体の標的となることが想定されるヘキソンの7つのHVR(hexon hypervariable regions)領域に変異を導入したAdベクターの開発の開発を目的に、これらの領域を変異させたAdベクタープラスミドの作製を行った。また、ヒト5型Ad抗体の影響を受けないヒト35型Adからなら腫瘍溶解性Adの開発に着手した。 (2)CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターの遺伝子治療や基礎研究としての有用性評価 近年新たに発見されたCpf1(Cas12a)は、Cas9とは異なった性質を持つことから、これを利用した新たなゲノム編集技術の開発が期待される。そこで、AsCpf1及びLbCpf1搭載Adベクター(Ad-AsCpf1、Ad-LbCpf1)の作製を行った。しかしながら、Ad-AsCpf1の回収タイター(力価)は低く、さらにAd-LbCpf1は取得が不可能であった。一方で、Ad-AsCpf1は高いゲノム編集効率を示したことから、機能的かつ高タイターのCpf1発現Adベクターの作製が今後の課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)Adと生体(細胞)との相互作用解析 ①Ad複製の観点からの解析:ヒト5型Adは小分子ノンコーディングRNAとしてVA-RNA Iに加え、VA-RNA IIもコードしている。本研究では、これまで研究が進んでいなかったVA-RNAIIの生理機能の解明を試み、VA-RNAIIのプロセシング産物であるmivaRNAIIが、CUL4Aの発現を抑制することで、Adの増殖を促進することを明らかにした。本研究成果は、腫瘍溶解性Adによるがん治療研究への応用に向けても極めて有用であり、次年度は本メカニズムを搭載したウイルス複製能に優れた新規腫瘍溶解性Adの作製とその抗腫瘍効果について検討する。 ②免疫誘導の観点からの解析:Adベクターは現在、ベクター投与による生じる免疫反応を逆に利用して、HIVなどの新興・再興感染症に対するワクチンベクターとして利用する試みが盛んに行われている。Adベクターを用いたHIVワクチンの臨床試験では、生体が有するヒト5型Adに対する既存抗体がワクチン効果に影響を及ぼしていることが報告されている。そこでH30年度は、ヒト5型Adに対する既存抗体の主な標的であるヘキソン領域を改変したAd作製のための遺伝子組換えを行った。次年度は、ヘキソンHVR領域を変異させたAdベクターを作製し、ベクターとしての基本的特性について解析する。また、ヒト35型Adからなら腫瘍溶解性Adの特性を解析する。 (2)CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターの遺伝子治療や基礎研究としての有用性評価 次年度は、Tet-Onシステムまたは肝臓特異的AHAプロモーターを用いることにより、ベクター増幅中のCpf1の発現を抑制することを試み、機能的かつ高タイターのCpf1発現Adベクターの作製とその特性解析を行う。
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Research Products
(15 results)
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[Journal Article] Detection of circulating tumor cells in cervical cancer using a conditionally replicative adenovirus targeting telomerase-positive cells.2018
Author(s)
Takakura M., Matsumoto T., Nakamura M., Mizumoto Y., Myojyo S., Yamazaki R., Iwadare J., Bono Y., Orisaka S., Obata T., Izuka T., Kagami K., Nakayama K., Hayakawa H., Sakurai F., Mizuguchi H., Urata Y., Fujiwara T., Kyo S., Sasagawa T., Fujiwara H.
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Journal Title
Cancer Sci.
Volume: 109
Pages: 231-240
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Clinical features of squamous cell lung cancer with anaplastic lymphoma kinase (ALK)-rearrangement: a retrospective analysis and review.2018
Author(s)
Watanabe J., Togo S., Sumiyoshi I., Namba Y., Suina K., Mizuno T., Kadoya K., Motomura H., Iwai M., Nagaoka T., Sasaki S., Hayashi T., Uekusa T., Abe K., Urata Y., Sakurai F., Mizuguchi H., Kato S., Takahashi K.
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Journal Title
Oncotarget
Volume: 9
Pages: 24000-24013
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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