2017 Fiscal Year Annual Research Report
「超越性」と「生」との接続:近現代ロシア思想史の批判的再構築に向けて
Project/Area Number |
17H00907
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
貝澤 哉 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30247267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
根村 亮 新潟工科大学, 工学部, 教授 (40242367)
鳥山 祐介 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (40466694)
杉浦 秀一 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (50196713)
兎内 勇津流 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (50271672)
下里 俊行 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (80262393)
坂庭 淳史 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80329044)
望月 哲男 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 名誉教授 (90166330)
金山 浩司 東海大学, 公私立大学の部局等, 講師 (90713181)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ロシア思想 / 宗教思想 / 科学思想 / 人文科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、秋と春に2回の全体会合を持った。第1回会合では、「ロシアにおけるH.スペンサー受容と自然観の変容」、「例外状態における世界創造とメシアニズム:第一次世界大戦期におけるベルジャーエフの思想」の報告がなされ、19世紀と20世紀初期の西欧の思想的言説のコンテクストや世界情勢のなかでロシア思想をどう位置づけるかについて、活発な討議が行われた。第2回会合では、「チュッチェフとパスカル:その人間観をめぐって」、「アレクサンドル・ポポフ(1820-1877)のカトリック論」と題された報告がなされ、19世紀前半のロシアにいて、実存的な個と無限との関係が西欧との関係のなかでどのように変形されていくのか、また当時のカトリック神学やローマ教皇、プロテスタントとの対外的関係のなかで、どのようなカトリック観が形成されていったのかをめぐって、興味深い議論がくりひろげられた。これらの報告は、いずれも西欧の言説や社会、政治的状況に深くコミットすることでロシア思想の特徴や独自性が形成されていったことを示唆しており、自然や無限、神などの超越性を、個や人間の実存、世俗的な社会の側からどのように把握するのかという共通の問題意識を備えていることが確認できた。 個別には、シペートやバフチンにおける「人文科学」概念の独自性を、新カント派からアウグスト・ベーク、ディルタイらにいたるドイツの文化科学、文献学、歴史学、解釈学等の流れのなかに位置づけながら明らかにする発表、ベール、ナジェージジン、ユルケーヴィチなど19世紀思想と自然科学との関係を考察した発表などが国際学会でなされ、ソ連における政治思想と科学知の関係を問う論文が刊行されるなどしたが、いずれも観念的・理念的なものと具体的・即物的なものとの関係を問題としており、「超越性」と「生」の接続という本科研の主題にとって重要な成果と言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者および各分担者が、「超越性」と「生」の接続というテーマをそれぞれ多角的に追究し、2回の全体会合や、国内外の学会等での個別の研究発表、論文集や学術雑誌への投稿、さらに商業雑誌やネット配信などを通して、数多くの成果を世に出し、広く社会に還元することができたといえる。 具体的には、代表者、分担者による関連論文や解説が10本程度、内外の学会発表、講演、インターネットでの配信などによる関連テーマの成果発信が11回ほどあり、一年目の成果としてはまずまずのものであろうと考えられる。また2回の全体会合での報告と長時間にわたる討議によって、メンバーのあいだでの問題意識の共有もより確かなものになった。 さらに、全体会合では、博士学位取得直後の若手研究者や周辺領域の専門家にも積極的に参加してもらうように心がけ、次年度以降の研究の層をより厚くし、ロシアの思想史を、ジェンダー論や批評理論、メディア理論、イメージ論等の新たな見地から再考するための努力もおこなってきた。こうした努力の結果、本研究会は、国内のロシア思想史関係の研究会のなかでも、最も多彩で幅広く有能な人材が集まったもののひとつへと成長してきた。 こうした状況を考慮すれば、本研究課題の進捗状況は、目下のところおおむね順調というべきである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの方法を継続し、参加メンバーによる基礎資料収集、資料読解をもとにした個別的研究をさらに推し進め、各種学会、学術誌、著書、講演、配信等による成果の公開を心がけるともに、年2回の全体会合をつうじて、個別的研究の成果を本研究の大きなパースペクティヴのなかに位置づけて共有し、ロシア思想史の批判的再構築に向けた議論を活性化して、ロシア思想研究の新たな視点や枠組みの獲得を目指したい。 また、引き続き研究協力者として有能な若手研究者を発掘し、カバーする分野を広げるとともに、新たな方法論や隣接領域との協力をさらに推し進めていく。 資料調査では、海外(主にロシア、フィンランド等)における一次資料収集を中心とし、また、ロシア、ポーランド等で定期的に開催される思想史系の国際学会への参加も継続する。こうした海外における活動のなかで知遇を得た海外の専門家にも情報提供者やアドバイザーとして参加していただき、都合がつけば日本への招聘や、講演、国際シンポジウム、ワークショップなどの開催、論文の寄稿などを今後企画・検討する。 さらに、本研究で得られたロシア思想史の再構築の大きな成果を広く社会や学界に還元するために、論集の刊行を企画する。本研究の研究代表者、研究分担者はすでに、本研究のテーマにかかわる多くの優れた業績を蓄積しており、これらを従来の思想史研究の批判的再構築というまとまったコンセプトのもとにまとめて刊行すれば、我が国におけるロシア思想史研究の水準や風景は、多くの点で刷新されるのではないかと考えられる。今後はまず、これまでに蓄積された論文等の業績を編集することで、第一論集の編集・刊行をめざし、将来的にはこの後さらに4年のあいだに蓄積されるであろう業績を吟味して編集し、第二論集、第三論集の編集・刊行も企画し、ロシア思想史研究再構築の新たな流れを作り出していきたい。
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Research Products
(22 results)