2019 Fiscal Year Annual Research Report
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17H00912
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊藤 鉄也 大阪大学, 国際教育交流センター, 招へい教授 (10232456)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大谷 晋也 大阪大学, 国際教育交流センター, 准教授 (50294137)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 平安文学 / 多言語翻訳 / 日本文化 / 『十帖源氏』 / データベース |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も、海外の研究情報と翻訳本を調査し収集する活動を主として展開した。国際研究交流としては、中国広州で「2019年度中日比較文学国際シンポジウムおよび広東外語外貿大学日本語言語文化学院大学院生フォーラム」を主催者として実施した。講演・研究発表・ディスカッションを通して、現地の研究者から多彩な研究情報や資料及び情報として伝わっていなかった多くの翻訳本を入手することができた。それらは、すべて本科研のホームページ[海外平安文学情報](http://genjiito.org)に収載し公開している。 各国語訳『源氏物語』は、世界38言語に翻訳されている。その『源氏物語』を、各言語を母語とする者(母語話者)と母語としない者(非母語話者)により、日本語への訳し戻しを行っている。今年度は、ロシア語訳『源氏物語』(タチアーナ・L. ソコロワ・デリューシナ著)と、ルーマニア語訳『源氏物語』(アンジェラ・ホンドゥル著)の訳し戻し作業を行い、日本文化の変容を考察する基礎資料を作成した。これを元にして、共同討議を行うことになる。『十帖源氏』の翻訳は、ロシア語・ハンガリー語・日本点字の3種類を手がけた。特に日本点字の翻訳により、視覚障害者も平安文学作品を読むことへの道が拓けたと言えよう。 本年度の新たな取り組みとして、研究成果を広く公開する目的で、出張授業「海外で読まれている平安文学―翻訳本の表紙を楽しむ-」を愛知文教大学で実施した。初めて見て触る世界各国の翻訳本の実態を知った多くの学生は、日本文学の世界的な拡がりを実感したようである。 第13回「海外における平安文学」研究会では、研究協力者と共に成果の報告と討議などを行った。その内容はすべて、ホームページ[海外平安文学情報](http://genjiito.org)に公開している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初設定した、研究期間の4年間で調査研究によって解明する目標は、次の3点であった。 1. 世界各国で翻訳されている平安文学の総合的調査を実施し、各国の受容史と研究史を整理。/2. 江戸時代の簡約版『十帖源氏』を多国語翻訳し、日本文化の変容と理解について共同研究。/3. ホームページや電子ジャーナル等のメディアを活用して、研究者が情報交換をする場所を提供。 この内、1は当初予想した以上に情報が集まり、受容資料としての翻訳本も確実に収集点数を増やしている。特に、昨秋、中国・広州で本科研が国際集会を主催した折に収集した翻訳本は、今後の中国における日本文学研究の実態を究明する上で有益な資料群となるはずである。2の『十帖源氏』も、ロシア語・ハンガリー語・日本点字と、多彩な成果があった。本科研が研究対象とする世界の言語は38種類ある。さらに翻訳言語を広げて、世界中の実状を明らかにしていきたい。また、3のホームページ[海外平安文学情報](http://genjiito.org/)は、着実に情報と資料を追加しており、膨大なデータベースの構築へと進んでいる。 大阪大学の外国学図書館(旧・大阪外国語大学)の平安文学翻訳書籍の調査は予定通り進んでいる。次は、東京外国語大学の収蔵資料に着手する予定である。東京外国語大学には、本科研の研究協力者が昨秋より着任したことにより、調査しやすい研究環境ができた。これは、最終年度の課題を実現する上で、大きな推進力となるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、本年が最終年度となるため、これまでに収集した情報と資料を総整理して、世界各国における平安文学の研究状況を総括してまとめたい。『源氏物語』と『十帖源氏』の多言語翻訳については、さらに言語の幅を広くとり、貴重な資料集成へとつなげていきたい。そして、その成果はホームページのみならず、電子版『海外平安文学研究ジャーナル』に掲載して公開することとなる。電子版『海外平安文学研究ジャーナル』は、これまでに第8号まで発行している。次は、これまで3年間の成果をさらに目配りをしてすくい上げる中で、最終号となる第10号(今冬発行予定)につなげる予定である。このジャーナルには、これまでに収集した情報と翻訳本、そして『十帖源氏』の多国語翻訳などを掲載する。また、『海外平安文学研究ジャーナル〈ミャンマー編〉』『海外平安文学研究ジャーナル〈中国編〉』の編集も最終段階となっている。これも、共同討議を経て完成させたい。 こうした方向性を定めた研究を遂行していくことで、「1.翻訳から見た日本文化の変容」「2.『十帖源氏』の翻訳と研究」「3.共同研究基盤の整備」が関連しながら成果として公表できるものとなるはずである。 また、「国際日本文学研究交流集会」の開催も、これまで通り取り組むものである。しかし、新型コロナウイルスの影響で、昨年度に中国・広州で主催して実施したようには開催できない状況下にある。ミャンマーとハンガリーでの開催が進んでいたところ、ウイルス感染に伴う国際事情により、すでに開催が危ぶまれている。したがって、これは世界的な疫病のためにやむを得ないこととし、中止せざるをえない。ネットワークを活用することで、国際交流の成果としてまとめる予定である。
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