2018 Fiscal Year Annual Research Report
世界史的視点からの国民国家における戦争記憶の記録化と戦後社会の構築に関する研究
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17H00929
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
檜山 幸夫 中京大学, 法学部, 教授 (40148242)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 戦争記念碑 / 戦歿者慰霊 / 戦後の和解論 / 抵抗運動 / ホロコースト / 戦争の記憶 / 戦争の記録 / 戦後論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国家や国民が戦後に戦争処理として構築する戦争記念碑や戦歿者墓碑石の形状と碑文及び関係資料や文書史料等の分析を通じて、戦争の記憶がどのように記録され主張され後世に伝えられようとしているのかを、一国主義的な個別性を踏まえつつも世界史的視点からそこに描かれている普遍的な考え方を明らかにすることで、戦後の和解への方法論を探し出すことを目的としている。このため、多くの事例を収集して現状を把握する必要があり、国内では主に戦争犠牲者の慰霊を中心に函館市と広島市で空襲と原爆犠牲者慰霊を、石垣市でマラリア犠牲者の慰霊を、戦争の記憶の伝承については福山市のホロコースト記念館と八重山平和祈念館の取り組みを調査して、戦争犠牲者論の理論を構築するための基礎資料を収集した。海外では、ドイツで伝統的な戦死者慰霊碑と警告記念碑が共存する現状を把握するため、キール・フレンスブルグ・ハンブルグ・ゼーベン・グナーレンブルグ・ブレーマーハーフェン等で市営墓地を中心に墓碑石と慰霊碑などを調査し資料を収集した。イタリアでは、ナチファシストによる住民虐殺事件が起こったクレスピーノ村・バルチオーレ村・ビンカ村の公営墓地で、慰霊碑と墓碑石の悉皆調査と関係者の聞き取りを行った。また、大戦中の国家の微妙な立場により、多くの市民が犠牲となったことから、ピサ・パルマ・コルトーナ・フィレンツェ等の公共公営墓地で、軍人戦死者墓・虐殺犠牲者墓・空襲犠牲者墓・抵抗運動犠牲者墓・パルチザン犠牲者墓などの調査を行うと共に、遺族や関係者への聞き取りを含め意識調査を行った。複雑な民族問題を抱えていたクロアチアでは、リエカで公営墓地や教会などで記念碑・墓碑石を、イタリア軍慰霊堂で墓碑の調査を行い、和解の現状を把握した。なお、収集した資料情報は、報告書としてA4版653頁の冊子に纏めると共に、電子情報化してCD版を作成して提供した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、四つの方法で研究を進めてきた。第一は、当初の研究計画に基づきそれを実施するために、北ドイツにおける伝統的な戦争記念碑と戦歿者慰霊の状態を調査したこと、第二は、今までの研究を踏襲し発展させたものであるが、研究を進めていく過程で新しい課題が出てきたことから、調査対象を拡げるとともに、それを掘り下げていくことにより研究をより深化させたこと、第三は、昨年までの調査で一定の成果を上げたが、さらにそれをより深く追究するために敢えて同じ地域で調査を行ったこと、第四が、資料収集の範囲を拡大させ、大学文書館(戦死学徒の記録)や各文書館などに保存されている個人文書史料を積極的に収集した。さらに、大きな進展は、本研究によって新たな課題が出てきたことである。それは、本研究の根幹にかかわる問題でもあるが、戦後の和解論にとって重要な責任論に関係するもので、被害者の複雑な感情をどのように捉えるかという、より踏み込んだ問題に取り組む必要性が出てきたことだ。その一つの事例が、イタリアのヴィチェンザに建立されている記念碑である。この記念碑の特徴は、連合軍の空襲による犠牲者とナチファシストに虐殺された犠牲者とが一つの記念碑に纏められ、同じ戦争犠牲者として慰霊するという構造になっていることにある。戦争犠牲者の遺族にとって、原因に差別はない。ここでの問題は、この事例だけに限定されるものではなく、論理的にはパルチザンの抵抗とナチドイツによる虐殺被害といった関係性の問題、つまり抵抗運動に巻き込まれて虐殺に遭うということによる被害者の感情は、公式的論理で論じることができないことを示している。このように、記念碑や墓碑に刻まれている文字情報が極めて大きな意味を持っていることから、さらに深く踏み込んだ研究とより多くの事例を調査していく必要性があることが判り、仮説の正しさと、さらに踏み込んだ研究の必要性を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の方法論は、状況に応じて改良を加えながらも基本的には今まで行ってきた研究方法を踏襲してきたものであるが、さらに研究の進展に伴い新たな方法を加え、研究を大きく発展させると共に、内容をより深化させたことにより、予想を上まわる大きな成果を上げることが出来た。それは一般的に知られていない事例が、しかも内容的には重大な事例であるといったことが現地調査において発見されたことと、現地における調査でさまざまな関係者(研究者や郷土史家を含む)と知り合うことができ、且つ多くの貴重な情報の提供を受けたこと、さらに遺族・司祭・行政機関を含む関係者・管理者や奉賛会などの任意の団体などが積極的に調査に協力してくれるといったことなどによるものでもある。 これは、基本的には本研究の方向性や方法論、調査対象者や地域の選択などが正しかったことを意味している。このため、今後もこれまでの方法で研究を推進していくべきであると思われることから、研究対象者や対象地域などを積極的に広げるとともにより深化させていくべきであると考える。具体的には、記念碑や墓碑に刻み込まれた碑文などの文字情報を収集し分析するだけではなく、現存していること(破損・修復・移築を含め)を前提として、これを維持管理している遺族や司祭・僧侶から維持管理者を含む関係者への聞き取りと関係資料の収集、記念碑の建立及び現存を総体として捉えその社会的環境を分析の対象に拡げることにより、研究をさらに発展させていく予定である。
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