2019 Fiscal Year Annual Research Report
世界史的視点からの国民国家における戦争記憶の記録化と戦後社会の構築に関する研究
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17H00929
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
檜山 幸夫 中京大学, 社会科学研究所, 特任研究員 (40148242)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 戦争記念碑 / 戦歿者慰霊 / 戦後和解論 / 戦後正義論 / 戦争の記憶と記録化 / ジェノサイド / ホロコースト / ホイバ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国家や国民が戦後に戦争処理として建立した戦争記念碑や戦歿者墓碑石の形状と碑文及び関係資料や文書史料並に聞き取り記録等の分析を通じて、戦争の記憶がどのように記録され後世に伝えられてきたかを、一国主義的な個別性を踏まえつつも世界史的視点から捉え、そこに示されている普遍的な考え方を明らかにすることで、戦後の和解への方法論を探し出すことを目的としている。今年度は、国内では空襲と原爆犠牲者及び戦後の住民犠牲者について調査した。海外では、ドイツにおいて伝統的な戦死者記念碑から戦後の警告記念碑や強制収容所などの現状を調査し、イタリアでは大学文書館や国立文書館でユダヤ人関係文書や戦死学生文書並に戦死者慰霊碑の文書等の調査を、各地の公営墓地や教会や公園などで空襲やジェノサイドなどの犠牲者に関する資料を収集し、通過収容所をはじめ強制連行者や、強制移住者などの戦後犠牲者を含む資料を調査した。戦前と戦後を跨ぐ問題について、クロアチアでフォイベの調査を行った。さらに、加害と被害の両面を内包する国の問題を考えるために、フランスとポーランドでその克服を目指す取り組みを調査した。フランスでは加害としてヴェル・ディヴ元競輪場跡の小さな犠牲者慰霊碑やドランシー強制収容所跡と記念碑を、被害としてオラドゥール虐殺遺跡と共同墓地を調査した。ポーランドでは、グダニスクにおいて被害者としての遺跡や記念碑と第二次大戦博物館を、ナチスの犯罪史蹟としてシュトゥットホフ博物館ナチ強制収容所とトレブリンカ絶滅収容所博物館と収容所跡の記念碑群を、ナチスの犯罪に加担した史蹟としてイェドヴァブネ村とボンソシュ村の慰霊墓地を調査するとともに、現在の住民の意識を含む関係性についての調査も行った。このようにして調査して収集した資料情報は、報告書としてA4版の冊子に纏めると共に、電子情報化してCD版を作成して一般に提供する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、5つの方法で研究を進めてきた。第一は、当初の研究計画に基づきそれを実施するために、戦争犠牲者(ホロコーストやジェノサイドの犠牲者も含む)にかかわる遺跡と慰霊碑・記念碑や墓碑の状態を調査したこと、第二は、今までの研究を踏襲し発展させたものであるが、研究を進めていく過程で新しい課題が出てきたことから、調査対象を拡げるとともに、それを掘り下げていくことにより研究をより深化させたこと、第三は、加害者論と被害者論が錯綜するなかでその矛盾的関係をどのように解決しようとしてきているのかについてその実態の把握に努めたこと、第四が、国立文書館や大学文書館において戦争犠牲者にかかわる公的記録を収集し彼らがどのように記録され伝承されてきているかを把握し戦後の問題を考える資料を収集し、第五に、戦前と戦後が断絶していない(1945年が存在しない)国家や地域における犠牲者の記憶の記録化の状態を把握し戦前と戦後の連続性の問題を考えるための資料を収集した。 本研究によって新たな課題として出てきた、本研究の根幹にかかわる問題でもある戦後の和解論にとって重要な責任論に関係するものがある。本来は、加害者論と被害者論とが錯綜する多くの国で共通するにもかかわらず、政治的理由からある一方だけが強調されるという現実の中での、被害者の感情についてより踏み込んだ問題に取り組む必要性が出てきたことだ。それは、イタリアだけではなくフランスでもポーランドでもクロアチアでも共通するものであるばかりか、本来的には戦後の多くの国にも共通する現代政治的問題であることから、今後の大きな研究課題として取り組んでいくべきものであることを示唆していると思う。 なお、コロナウイルスの関係で3月に予定していたドイツ・フランスでの調査と、沖縄での調査を中止したことと、大学の封鎖により調査収集資料の最終的な整理作業が中断せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の方法論は、現場主義による実地調査を通じて基本的な史資料を収集し、それを基に科学的に分析するというものであるため、状況に応じて改良を加えながら行っていかなければならない。今年度は、従来から行ってきたものに加え、戦前と戦後の連続性に注目し戦前を引き摺った戦争犠牲者や戦後の戦争犠牲者をも対象に加えたことと、被害者論と加害者論とが錯綜するなかでの正義論を如何に構築するのかについてそれが混在する国を調査した。それは、それがないことにより戦後正義論が破綻的な状態になっている原因であると考えたからである。このため、研究調査対象を戦争犠牲者全体に拡げ、しかも記念碑や慰霊碑だけではなく犠牲者墓碑をも積極的に調査し多くの事例を収集したが、そこでは出来るだけ多くの文書史料や遺族を含む関係者からの聞き取りを行った。 さらに、仮説として設定していた記念碑や慰霊碑の碑銘や碑文の政治的背景性についても、それを証明する事例を少なからず見出すことが出来たことから、方向性としては間違っていなかったことになり、これをさらに推進していくことにした。 もっとも、戦争犠牲者の多くは、歴史に「数」としてしか記録されてこなかったことを踏まえ、戦争犠牲者に主体を置く本研究では出来るだけ戦争犠牲者の存在を残していく取り組みを行った。それが、墓碑の調査である。それは、戦争犠牲者の死を無駄にしないための取り組みでもあるばかりか、何故に戦後正義論が必要なのかを示すものでもあることから、この視点からの追究をより進めていくとともに、新たなる課題としてこれらの無名な戦争犠牲者をどのように歴史資料化していくかについての方法論を探っていく必要があろう。以上のことから、基本的には本研究の方向性や方法論、調査対象者や地域の選択などが正しかったことを意味していると思われることから、今後もこれをより発展させ研究を推進していくものである。
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Research Products
(1 results)