2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H00949
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
奥野 克巳 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 教授 (50311246)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
シン ジルト 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (00361858)
相馬 拓也 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (60779114)
近藤 祉秋 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 助教 (80779273)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マルチスピーシーズ民族誌 / 人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
複数種の絡まり合いから人間について考察を進める人文科学・自然科学の総合知の統合に本研究の意義があり、初年度のキックオフとして海外と国内での調査活動と本研究の主題の検討に力点を置いた。 各班の研究活動としては、【1】[異種間関係の動態]班では、東・中央・南アジアとラテンアメリカにおけるフィールドワークを踏まえ、伴侶動物(犬や馬)の肉や獣害(鹿や猪)および家畜(豚やヤク)の野生化に着目し、人間と他種との関係は必ずしも主客固定的なものではないという認識の下、「種間関係の動態」の解明を目指した。【2】 [種をめぐる科学と政治]班では、班員が日本各地におけるフィールドワークを実施して基礎データの収集に努めるとともに、班員間および関連する研究をおこなう研究者との意見交換を目的として研究会を共催した(7月、12月)。これらは、STSや科学人類学の理論を民族誌的次元に落とし込むための準備作業であった。【3】[複数種の意志疎通]班では、カナダ先住民の動物観と狩猟実践、西表島のイノシシ狩猟、モンゴル牧畜民の家畜飼養と在来植物利用およびユキヒョウやオオカミなどの獣害対策・対処の伝統知などについてフィールドワークによるデータを収集した。【4】[統括]班では、マレーシア・ボルネオ島での予備調査を実施するとともに、環境人文学をめぐる研究会を開催した(11月、1月)。 科研全体としては、第51回日本文化人類学会(於:神戸大学)研究大会で分科会「他種『とともに生きる』ことの民族誌―マルチスピーシーズ人類学の展望と課題」を組織するとともに、全体集会2回(5月、1月)を含め、「マルチスピーシーズ人類学研究会」を計10回研究会開催して(http://www2.rikkyo.ac.jp/web/katsumiokuno/multi-species-workshop.html)、課題と展望を得るべく努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【1】[異種間関係の動態]班は、おおむね順調に進展している。種間関係を意識しながら班員たちは精力的にフィールドワークを行い、豊かな一次資料を蓄積し、議論の深化につながる堅実な基礎を築いてきている。ただし、マルチスピーシーズ理論との連動が十分達成されておらず、課題となる。【2】 [種をめぐる科学と政治]班は、おおむね順調に達成している。研究会での討議によってマルチスピーシーズ民族誌に関する先行研究と論点の整理がおこなわれ、日本独自の視点で研究を進めながら、海外研究者との対話を続けることの意義が確認されてきている。予備的なフィールドワークにより、これらの先行研究を乗り越えるためのデータ収集が始まっている。【3】[複数種の意志疎通]班では、データや資料収集の点でおおむね順調に進展している。各班員は個別具体のデータを基礎資料として収集しており、今後それらの集約・統合により「複数種の意思疎通」について学融合型かつ包括的な議論の展開が今後の課題となるものと思われる。【4】[統括]班では、それぞれの班がうまく連携・協働するべく研究集会を組織し、それぞれの班を組織して、マルチスピーシーズ研究の課題と展望するための理論面での検討に力を注ぐとともに、環境人文学との連携・協働にも努めてきた。 それぞれの班の国内外の予備的な調査活動と並行して、本科研主催・共催の研究会を計10回にわたって行ったが、マルチスピーシーズという主題に関して十分に検討や討議が行われ、各班の研究に深く浸透してきていると言える段階には届いていないし、環境人文学の中でのマルチスピーシーズ研究の位置づけも明確なものとはなりえていないが、初年度として、全体としては、研究はおおむね順調に進展してきているものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
【1】[種間関係の動態]班は、伴侶動物の種としての特性、屠畜や生肉販売の産業化と肉食の関連、供儀儀礼の背後にある人獣関係についての調査研究を一層深める。それに加えて、国内外の事例を比較の視野に入れ、班内の議論をより活発にすることに努める。さらに、共同研究会などをううじて他班との連携を強化することで、班として、種間関係の動態を解明しマルチスピーシーズ研究に貢献する。【2】 [種をめぐる科学と政治]班は、今後、班員の各自が現地調査を継続するとともに、日本および海外の科学人類学者・自然科学研究者との対話を進め、科学的知識生産の場における種間の関係を対象とする民族誌的研究を展開することに努める。次なる課題は、英語での出版・発表による本科研研究プロジェクトの海外での認知向上と国際的な研究ネットワーク作りであると考える。【3】[複数種の意志疎通]班は、モンゴル~中央アジア牧畜民の家畜管理法、ヒト・動物への在来有用植物等の資源利用、動物表象、北米・アジア・日本での狩猟実践についての実証的フィールド調査を引き続き実施し、「ヒトと動物の意思疎通」についての科学的知見をより深化させるべく努める。それに加えて、他班との協働によりマルチスピーシーズ理論におけるデータ分析と数理的理解の確立に貢献するべく議論を継続していきたい。【4】[統括]班は、それぞれ独自の方向に進みつつある各班の研究活動を、マルチスピーシーズ研究という枠組みの中により統合性をもたせるべく研究集会・研究活動を組織することに努める。また、環境人文学との連携・協働についても、より前に進めていきたい。 本年度は、日本の狩猟動向に関して、[種間関係の動態]班の企画に基づいて研究活動を組織し、その場での調査や議論をつうじて、今後の研究の方向付けを行っていきたい。
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