2017 Fiscal Year Annual Research Report
New developments of fundamental and applied researches on positronium neutral atoms and positronium negative ions
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17H01074
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
長嶋 泰之 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 教授 (60198322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
満汐 孝治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (10710840)
Chiari Luca 千葉大学, 大学院工学研究院, 特任助教 (20794572)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ポジトロニウム / ポジトロニウム負イオン / ポジトロニウム回折 / 運動誘起共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子の反粒子である陽電子は、電子と束縛して水素原子様の束縛状態であるポジトロニウムを形成する。さらにもうひとつの電子と束縛して、水素負イオン様の束縛状態であるポジトロニウム負イオンを形成することも知られている。 ポジトロニウム負イオンは、アルカリ金属を蒸着したタングステンに低速陽電子ビームを入射すると、蒸着面から高効率で放出される。これを電場で加速したのちにレーザー光で光脱離させると、エネルギー可変ポジトロニウムビームが得られる。申請者はこのようにしてポジトロニウムビームを生成する装置を開発してきた。この装置では固体ネオンによる陽電子減速材を用いて、高強度低速陽電子ビームを実現している。また、陽電子を磁場と電場で溜め込んでからパルス状低速陽電子にすることによって、高強度パルスレーザーと同期させてポジトロニウム負イオンを効率よく光脱離させることを可能にしている。さらに、入射陽電子を磁場レンズで1mm以下に収束させてから100nmの薄膜タングステンに入射し、ポジトロニウム負イオンを入射面とは反対側の面から放出させている。このような工夫によって、輝度が高いポジトロニウムビームの生成が可能となっている。 本研究課題では、この装置を用いてポジトロニウムの基本的性質の解明とポジトロニウム負イオンの基礎研究を行う。前者では、固体表面におけるポジトロニウムの回折実験を行う。これによってポジトロニウム波動関数の干渉効果を観測すると同時に、新たな表面解析方法としての有効性を調べる。またグラフェンのような周期的構造を有する薄膜の透過実験やポジトロニウムの運動誘起共鳴実験を行う。後者では、ポジトロニウム負イオンのFeshbach共鳴の観測やポジトロニウム負イオン光脱離におけるレーザー偏光角依存性の測定に取り組む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らが開発してきた高輝度ポジトロニウムビーム生成装置では、ポジトロニウム負イオンの生成量が短時間のうちに減少する問題があった。まずはそのトラブルシューティングを行った。その結果、装置にわずかな真空漏れがあり、それによって侵入した気体がアルカリ金属と反応することが原因であることがわかった。真空漏れをなくすことによって、ポジトロニウムを安定に引き出すことが可能になった。この高輝度エネルギー可変ポジトロニウムビーム装置を用いて、下記の研究を行った。 (1)ポジトロニウム負イオン光脱離におけるレーザー偏光角依存性の測定:ポジトロニウム負イオンの光脱離の際には、光子のエネルギーと束縛エネルギーの差が余剰のエネルギーとなって、脱離する電子とポジトロニウムの反跳が生じ、それに伴ってポジトロニウムビームのエネルギーに広がりが生じる。この様子をポジトロニウムの飛行時間の測定によって観測した。解析の結果、ポジトロニウム負イオンの束縛エネルギーや光脱離における非対称パラメータの値が得られた。 (2)固体表面におけるポジトロニウム回折の実験:固体表面にポジトロニウムビームをすれすれの角度で入射し、その反射の様子を調べる実験を行った。試料にはLiFおよびMgOの単結晶を用いた。現時点でポジトロニウムの鏡面反射が観測されているが、回折による明確なスポットは得られていない。これは手持ちの試料マニピュレータに問題があるためであると考えられる。そこでマニピュレータの改造を行った。 (3)ポジトロニウムの運動勇気共鳴(コヒーレント共鳴励起):ポジトロニウムの運動誘起共鳴測定のための特殊マグネットの設計を行った。 (4)ポジトロニウム波動関数干渉効果測定の検討:ポジトロニウム波動関数の干渉効果を観測するために、高輝度ポジトロニウムビームのグラフェン薄膜透過実験の検討を行った。グラフェンホルダーの設計も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度からの研究が進展して、次のフェーズに入ることが可能になった。このまま研究を推進し、成果に繋げていく。詳細は下記のとおりである。(1)ポジトロニウム負イオン光脱離におけるレーザー偏光角依存性の測定:すでに測定は終わっている。解析をさらに進めて結果を論文にまとめる。(2)固体表面におけるポジトロニウム回折の実験:改造したマニピュレータを用いて、LiFやMgO表面でのポジトロニウム回折実験を行う。特に表面を清浄に保つために、試料を加熱しながら測定を行う。 (3)ポジトロニウムの運動勇気共鳴(コヒーレント共鳴励起):2017年度に設計した特殊マグネットを製作してポジトロニウムビーム装置の試料チェンバー内に設置し、ポジトロニウムの運動誘起共鳴の観測を行う。運動誘起共鳴が起こるとオルソポジトロニウムがパラポジトロニウムに変換されて短寿命で自己消滅する。この結果、ポジトロニウムが特定のエネルギーを有する場合に限り、検出器(マイクロチェンネルプレート)まで達するポジトロニウムの数が減るはずである。ポジトロニウムのエネルギーを制御しながら検出器に飛び込むポジトロニウムの数の変化を測定する。(4)ポジトロニウム波動関数干渉効果測定の検討:グラフェンホルダーを製作して、これを用いてポジトロニウムの波動関数の干渉効果を観測する。電子ビームがグラフェンを透過すると、下流側に置かれた2次元検出器に回折スポットが現れることが知られている。ここでは、ポジトロニウムビームを用いて測定を行う。(5)ポジトロニウム負イオン光脱離におけるFeshbach共鳴観測の検討:ポジトロニウム負イオンの光脱離における形状共鳴の観測にはすでに成功している。Feshbach共鳴の観測について、検討を行う。
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[Presentation] Shape resonance of the positronium negative ion2017
Author(s)
Yasuyuki NAGASHIMA, Koji MICHISHIO, Tsuneto KANAI, Susumu KUMA, Toshiyuki AZUMA, RIKEN, Ken WADA, Izumi MOCHIZUKI, Toshio HYODO and Akira YAGISHITA
Organizer
XXX International Conference on Photonic, Electronic and Atomic Collision (ICPEAC2017)
Int'l Joint Research / Invited
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