2018 Fiscal Year Annual Research Report
Establishment of Long-Range Corrected Density Functional Theory
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17H01188
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
平尾 公彦 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 上級研究員 (70093169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
常田 貴夫 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特命教授 (20312994)
中嶋 隆人 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, チームリーダー (10312993)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Kohn-Sham方程式 / LC汎関数 / TD-DFT / Koopmans定理 / 反応軌道エネルギーダイアグラム |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、本研究者らが開発した長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)により初めて得られた定量的な軌道エネルギーにもとづき反応軌道論を拡張した「反応軌道エネルギー論」の展開として、溶液反応や錯体反応を含む化学反応の網羅的解析のための反応軌道エネルギーダイアグラムを提案した[1]。高精度計算のためvan der Waals(vdW)汎関数で補正したLC-DFTで計算した。その結果、vdW力は化学反応における軌道エネルギーの振る舞いに大きく影響すること、vdW補正を行なうと70%以上の反応が電子移動で進行すると判定されることがわかった。結果にもとづき反応軌道エネルギーダイアグラムを作成した結果、反応性軌道はHOMOやLUMOではないこと、反応は占有反応性軌道を非局在化するように進行すること、非占有反応性軌道は補助的にしか関与しないことがわかった。 また、LC-DFT計算例のない金属錯体反応への適用性を調べるため、鉄錯体による過酸化水素分解反応の機構解明にLC-DFTを適用した[2]。最近の実験により、この反応は溶液界面で進行すること、OHラジカルは関与しないことが明らかになっていた。計算の結果、LC-DFTにより初めて実験と合致する反応機構を解明することができた。新たな反応機構においては、鉄イオン間の電子移動が先駆となり、OHラジカルを経由せずに、水素結合ネットワークを介した水素移動で反応が進行する。 さらに、高精度LC-DFT計算が難しいとされてきた金属計算への適用の第一歩として、銀ナノクラスタの基底・励起状態計算も行なった[3]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトは、研究の進展状況に伴った研究内容の若干の変更はあるが、研究計画の大目標である長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)の深化・高度化に向け、概ね計画通りに進んでいる。一昨年度までに、2電子励起配置の効果を時間依存(TD)DFTに取り込むためのスピンフリップ法をLC-TDDFTに組み合わせることにより、極めて高精度だが膨大な計算時間がかかる多参照ab initio理論による励起エネルギーの計算結果と同レベルの高精度励起エネルギーを与えることに成功していた。1次元拡張系のオリゴアセンやポリエチレン、2次元拡張系のグラフェンの計算を行ない、前者においては低励起状態ポテンシャルエネルギーの極めて緻密な相対的関係性を、後者においてはその電気伝導が1電子励起の電子移動で進行することを明らかにしていた。このSF-LC-TDDFTは、現在においても、世界で最も高精度なTDDFTであるといえる。また、LC-DFTの定量的な軌道エネルギーを利用した反応軌道エネルギー論を開発していた。昨年度は、反応軌道エネルギー論にもとづく反応軌道エネルギーダイアグラムを開発した。それにより、網羅的な反応軌道論解析が可能になるとともに、これまでの反応軌道論解析の間違いの訂正やポピュレーション反応解析の限界を示すことにも成功し、LC-DFTの反応解析における極めて高い有用性を示せた。また、LC-DFTを従来取り扱いが難しいとされてきた金属錯体や金属クラスタの計算に適用した。予想に反して、その計算結果はLC-DFTがこれら金属系の電子状態についても適用性が高いことを示すものであり、少なくとも数十原子レベルの系に関してはLC-DFTが極めて優れた量子化学計算理論であることを確認することができた。以上のように、昨年度までLC-DFTの励起状態計算や大規模分子計算における有用性を確認することができており、LC-DFTの深化・高度化に向かって概ね順調に研究は進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、本プロジェクトの最終段階として、反応軌道エネルギー論および長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)へのデータ科学の導入と、LC-時間依存(TD)DFTによる人工光合成系光触媒反応の機構解明に取り組む。 まず、データ科学の機械学習を反応軌道エネルギー論やLC-DFTに導入し、遷移状態や固有反応座標を計算することなしに軌道論解析する方法、および交換・相関汎関数の物理的特徴を踏まえてパラメータを機械学習によって決定する超高精度LC汎関数の開発に取り組む。前者についてはすでにデータセットの構築プログラムを作成済みである。後者もすでに共同研究を開始している。 また、LC-TDDFTを人工光合成系の光触媒反応機構の解明に適用する。反応系は、酸素発生系のリン酸コバルト(CoPi)と水素発生系のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)である。これらはそれぞれ可視光を吸収して反応を進行させるため、可視光応答人工光合成反応系として期待されている。本年度は、一昨年度のトリフェニルホスフィンおよび昨年度の鉄イオンによる過酸化水素分解反応の機構解明の経験をもとに、これら光触媒反応系の機構解明に取り組む。 さらに、高速かつ高精度な計算のための多配置DFTの開発も開始する。この理論は、きわめて多くの電子配置を取り込んだ多配置SCF計算を可能にする密度行列繰り込み群(DMRG)多配置SCFをLC-DFTに取り込むものである。DFTの残された最大の問題の1つは、単配置理論であるDFTが解離ポテンシャルを全く再現できないことである。これを解決するにはDFTを多配置化すればいいのであるが、多配置波動関数とDFTには電子相関の二重計算の問題があり、また膨大な計算時間もかかる。後者の問題を解決するのがDMRGの導入であるが、前者の問題解決には慎重な理論開発が必要である。
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