2017 Fiscal Year Annual Research Report
精密構造解析・理論化学計算による有機デバイスの基礎科学構築
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17H01231
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梶 弘典 京都大学, 化学研究所, 教授 (30263148)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志津 功將 京都大学, 化学研究所, 助教 (10621138)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 有機EL / NMR / 分子配向 / マルチスケールシミュレーション / 理論計算 / TADF |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、交付申請書に記載した本年度の研究実施計画である、1) 有機デバイス作製、2) 有機デバイスのin silico電荷輸送解析に取り組んだ。さらに、当初の計画以上に、3) DNP-NMRによる有機非晶膜の解析にも取り組んだ。 1)我々が開発したDACT-II、tBuDACT-IIについて、溶液プロセスを用いて高い外部量子効率を有する有機EL素子の開発に成功した (J. Soc. Inf. Disp. 2017)。tBuDACT-IIについてはポリマーホスト中における配向解析を行い、ホスト中において基板垂直に配向する傾向があることを見出した(J. Mater. Chem. C 2017)。これらの結果に加え、蒸着プロセスにおいて外部量子効率20%を示す青色熱活性化型遅延蛍光(TADF)素子の開発を行った(J. Photopolym. Sci. Technol. 2017)。また、アダマンタン置換という新たな戦略を提案し、塗布プロセスにおいても20%を越える外部量子効率を示す青色TADF有機EL素子の開発に成功した(Adv. Mater. 2018)。 2)我々が独自に展開してきた、量子化学計算、分子動力学計算、動的モンテカルロ計算を併用した多階層計算を用い、有機非晶薄膜と有機結晶薄膜おける電荷輸送過程の比較を行った。その結果、非晶膜におけるエネルギー準位の乱れ(分布)が電荷移動度を低減させる一方で、非晶系特有の構造的な乱れ(分布)はほとんど移動度を低下させない、という予想外の結論を得た(Sci. Rep. 2018)。 3)有機非晶膜中の有機分子の配向解析を、動的核偏極NMR (DNP-NMR)を用いることにより行った。その結果、極微少量の蒸着膜に対しても、その分子配向を「分布」を含めた形で解析することに成功した(Angew. Chem. Int. Ed. 2017)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述の研究実績のうち、アダマンタン骨格をTADF分子の一部に置換基として導入するという戦略より、当初の予測を遙かに超えた高特性の塗布型有機ELデバイスの創製に成功した。このアダマンタン置換戦略により、ハロゲン溶媒のみならず、非ハロゲン溶媒にも高い溶解性を持ち、飛躍的な熱安定性を実現するとともに、MA-TA, FA-TA, PA-TAと名付けた高特性深青色発光材料群を得ることに成功した。塗布型TADF有機EL素子において、青色の深さの指標であるCIE y座標が0.2以下、0.15以下、0.1以下のなかで、それぞれMA-TA, FA-TAは世界最高値、PA-TAは世界第二位の外部量子収率を示した。本研究は、材料科学分野において高いインパクトファクター(IF = 19.79)を有する国際学術誌Advanced Materialsに掲載された。 また、in silico電荷輸送解析に関しては、非晶系特有の構造的な乱れ(分布)がほとんど電荷移動度に影響していないという、という予想外の重要な結果を得、Scientific Report誌に掲載された。この結果は、高移動度非晶材料設計のための重要な知見である。 さらに、次年度以降に計画していたDNP-NMRによる解析が、予想外に大きく進展した。DNP-NMRを用いることにより、52 μgという極微少量の非晶薄膜に対する分子配向解析に成功した。この研究結果は、国際学術誌Angewandte Chmie International Editionに掲載された。
以上の観点から、研究が極めて順調に、当初の計画以上に進展していることが明確である。
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Strategy for Future Research Activity |
現状、有機ELデバイスに関する研究が極めて順調に進展しており、2018年度も引き続き、現状の形で研究を進めていく。発光材料となるTADF材料の開発に関しては、現在開発中のさらに新規な青色TADF材料について素子化を行い、高特性材料・素子の開発を継続していく。In silico計算に関しては、未だ見られている計算と実測のズレに関して検討を進める。デバイス解析に関しては、昨年度末、国内初となるDNP-NMR装置を導入することができた。今後、このDNP-NMRの正常運用を確実にし、それを用いた解析を一層推進させる。
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