2018 Fiscal Year Annual Research Report
Study on self-forming and self-healing mechanism of natural superlubricity in articular cartilage surface
Project/Area Number |
17H01244
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
澤江 義則 九州大学, 工学研究院, 教授 (10284530)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 哲生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (20466783)
森田 健敬 九州大学, 工学研究院, 助教 (70175636)
中嶋 和弘 帝京大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70315109)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トライボロジー / 関節潤滑 / 細胞・組織 / 生体分子 / 超潤滑 |
Outline of Annual Research Achievements |
柔軟で高含水かつ透水性であるPVAハイドロゲルを関節軟骨組織のモデル材料とし,関節液に含まれる生体高分子成分であるタンパク質,リン脂質(フォスファチジルコリン,DPPC)およびヒアルロン酸(HA)による潤滑効果を,往復動摩擦試験により評価した.本年度は,摩擦係数の滑り速度依存性と,それに対する生体高分子の影響を検討した.生体高分子を含まない生理食塩水中では,摩擦係数は50 mm/s以下の低滑り速度領域において滑り速度の増加とともに上昇し,50 mm/s以上では一定値となった.これは軟骨モデルの粘弾性特性に由来すると考えられる.潤滑液中に添加したHAは,特に低滑り速度域の摩擦係数を効果的に抑制した.一方DPPCは単体では摩擦係数への影響が認められないものの,HAと混合することにより50 mm/s以上の高滑り速度領域において摩擦係数を抑制した.このように,HAとDPPCの摩擦抑制効果は滑り速度に大きく依存し,両者を混合することで相補的に広い滑り速度領域において摩擦を抑制することを明らかにした.一方,タンパク質を含む潤滑液中では,軟骨モデル表面に変性したタンパク質が広範囲に吸着していることがFT-IRにより確認された.変性したタンパク質の吸着層間において滑りが生じたため,摩擦係数が上昇するとともにPVAハイドロゲル特有の摩擦係数の速度依存性が見られなくなったものと考えられる.関節液成分による潤滑効果は,股関節シミュレータ試験によっても評価した. アガロースゲルに初代軟骨細胞を播種した培養軟骨モデルを用い,軟骨細胞により産生された細胞外マトリックスによる潤滑効果を評価する試みも継続した.今年度は,まずナノトライボメータにより軟質な培養軟骨モデルの摩擦を測定する技術の向上に取り組み,安定して再現性の良い測定結果を得るため,アガロース濃度等のモデルの最適化を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
往復動摩擦試験による関節液由来生体高分子成分の潤滑効果評価については,概ね計画通りに進み,いくつかの興味深い知見が得られた.特に,HAが低滑り速度域において摩擦低減効果を発揮すること,HAにDPPCを共存させることにより,低滑り速度から高滑り速度までの広い条件下において摩擦低減効果が発揮されることが示された.HAによる低滑り速度域における摩擦低減は,低せん断速度領域における溶液粘度上昇により説明できる.一方,高滑り速度域における摩擦低減メカニズムについては明確な説明が困難であり,この点について更なる検討が必要である.一方,タンパク質による摩擦上昇については,FT-IR分析により変性タンパク質による吸着膜形成が原因であることが確認された.今後はタンパク質吸着量と摩擦係数との関係を,定量的にモデル化することを目指す.股関節シミュレータによる歩行模擬条件下における潤滑効果の評価にも着手したものの,定量的分析のためには,更にパラメータ抽出と解析手法について検討を進める必要がある. 軟骨細胞により産生される細胞外マトリックス成分の潤滑性評価については,導入したナノトライボメータにより高精度な摩擦評価を行うための培養軟骨モデルの最適化を進め,今後はアガロース濃度を2.5 wt%とした培養軟骨モデルを実験に用いることとした.また現在行っている2週間の静置培養では,モデル内部における細胞外マトリックス産生が不十分であり,摩擦係数に対する明確な効果が認められなかった.そのため,今後は培養日数を増やすとともに,機械的な負荷を与えながら培養を行うことを検討する. 試験片の有限要素固液二相潤滑については,ダッソー・システムズ社製のアバカスCAEを導入し,細胞を含むアガロースゲルのモデル作成をすすめ,顕微鏡視野下の圧縮試験により得られた変形挙動との比較により,各種材料物性の推定を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた生体高分子成分の潤滑効果について検証実験を継続するとともに,滑り速度と摩擦係数の関係をはじめとする実験結果について,数値モデル化を進め,摩擦低減のメカニズムを探究する.また軟骨モデル表面に形成される吸着膜の組成および構造の評価も継続する.これまで,FT-IRにより変性タンパク質による吸着膜形成を確認することができたものの,その他の吸着成分については検出することができなかった.これは,湿潤状態での軟骨モデル表面の分析が難しく,乾燥状態で分析を行ったこと,FT-IRの感度が十分ではなかったこと等が原因と考えられる.そこで本年度は,予めタンパク質,DPPC,HA分子をそれぞれ蛍光染色し,実験後の軟骨モデル表面に形成された複合吸着膜の形態を,蛍光顕微鏡により評価することを目指す.特に,低滑り速度域におけるHAによる摩擦低減メカニズム,高滑り速度域におけるHAとDPPCの複合潤滑膜による摩擦低減メカニズムの解明を目指す.またHAとDPPCの摩擦低減効果が,共存するタンパク質の吸着により阻害されることが明らかとなったため,軟骨モデルとして用いるハイドロゲルの組成を再検討し,モデル表面にタンパク質吸着の抑制効果を持たせることで,HAとDPPCによる摩擦低減効果を有効化する可能性を検討する. 次に,関節軟骨内の細胞により産生されたプロテオグリカンによる潤滑効果を評価するため,培養軟骨モデルの摩擦評価を継続する.前年度までに摩擦測定のために最適化した培養軟骨モデルを用い,ナノトライボメータによる評価を継続する.またモデル内での細胞外マトリックス産生と組織構造形成を促進するため,圧縮およびせん断変形を繰り返し与えながら培養する,機械的負荷培養法を導入する. 有限要素解析については,昨年度作成したモデルを基盤に,摩擦試験時の応力・ひずみ状態について,有限要素解析を実施する.
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Research Products
(13 results)