2017 Fiscal Year Annual Research Report
放電発生ラジカルの長寿命化の解明と革新的プラズマ水処理技術の構築
Project/Area Number |
17H01257
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
金澤 誠司 大分大学, 理工学部, 教授 (70224574)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
市來 龍大 大分大学, 理工学部, 助教 (00454439)
小林 正 大分大学, 理工学部, 名誉教授 (30100936)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大気圧放電プラズマ / 活性酸素 / 化学プローブ法 / 電子スピン共鳴法 / プラズマリアクタ / 付加製造技術 / 水処理 / ラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
活性酸素のなかでも酸化力が最も高いヒドロキシラジカル(OHラジカル)は短寿命とされるが、大気圧放電プラズマ中では連鎖反応により常に存在するのではないか、との仮説より研究を開始した。プラズマと液体界面の重要性から、3つの反応系(1.プラズマが液体に直接作用する場合、2.プラズマ流として生成された活性種が液体に作用する場合、3.放電生成したオゾンが液体に作用する場合)に着目して、それぞれ個別に検討を行っている。 初年度は大気圧放電プラズマの発生には、液体と相互作用させる上で安定なプラズマが得られるプラズマジェットを主に使用した。今年度導入した電子スピン共鳴装置でOHラジカルの測定を行った。プラズマ照射時間に比例して積算されたOHラジカルの量は増加し、標準物質TEMPOを濃度較正に使用して、OHラジカルの絶対数を算出した。この結果は、これまでOHラジカルの測定に使用してきた化学プローブ法と比較して1桁以上高いことが判明した。トラップ剤の違い(特にトラッピング効率)とその濃度が異なること、化学反応の違いなど考えられるが、今後さらに詳細な分析が必要である。さらに、長寿命なオゾンに由来するOHラジカルの化学プローブ法による測定も実施した。単純な水中でのオゾンバブリングにおいてもOHラジカルが生成していることが明らかになった。放電プラズマによる直接法とオゾンによる間接法でのOHラジカル生成への興味ある結果が得られたので、今後両者の違いをさらに明らかにする。 一方、応用面では、放電プラズマによる水処理のためのリアクタに新規な処理液体の流体効果を取り入れる試みに成功した。循環式の水処理において放電プラズマリアクタの円筒状放電管に供給する処理対象水を通常の層流から旋回ジェット流にかえるコアンダ効果を取り入れた。着色水の脱色実験において、エネルギー効率は約3倍に向上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度に購入することになっていた電子スピン共鳴装置が年度後半で導入されたため、計測システムの構築に時間を要した。そのため研究の柱となるラジカル測定においては、対象とするプラズマは最も計測し易い大気圧プラズマジェットに限定した。電子スピン共鳴法を使い、標準物質による較正を行うことで液中のOHラジカルの絶対濃度が計測できるようになった。プラズマジェットが水面に吹き付ける条件下でのOHラジカルの生成速度は3×10-8 mol/sであった。この値とこれまで得られていた化学プローブ法の計測データとを比較したところ、化学プローブ法による計測値が低く見積もる傾向にあることがわかった。化学プローブ法とのクロスチェックが可能となったが、精度を確保するためには計測条件(溶液の導電率、pH、トラップ剤の濃度など)を同一にして測定する必要があるためのその準備中である。 水処理応用においては、コアンダ効果と呼ばれる現象を新たに見いだし、世界で初めてプラズマ水処理装置に導入した。流体制御に成功し、処理時間の短縮やエネルギー効率の改善に効果が見られた。有機染料で色が付いた水の高速処理が可能となった。インジゴカルミン水溶液でのエネルギー効率は150 g/kWhであった。今後の改良や工夫において、さらなら効果の発現が期待できる状況にある。これらの成果は、エコテクノ2017(2017年10月11日~13日、西日本総合展示場)において、次世代の水処理プロセスとしてプラズマの有効性を実証することにより、広く社会・国民に発信することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
化学プローブ法と電子スピン共鳴法を用いてOHラジカルの計測が可能となった。トラップ剤以外の実験条件はすべて同一として測定値の比較を行うことで、両手法により信頼性あるラジカル量の決定するための基準を示す。 次ぎに研究課題の根幹をなす長寿命ラジカルについて、反応過程の解明と長寿命化の影響因子を明らかにする。OHラジカルをはじめとする活性酸素や活性窒素の気液界面での振る舞いについて、影響を及ぼす要因を実験のパラメーターとして評価を行う。具体的な影響因子として、液体の導電率、pH、温度、液体とプラズマの関係、プラズマ自身の特性、長寿命活性種の存在、ラジカルスカベンジャーの存在、流体としての流れの効果がある。これらの因子が創り出す複雑系プラズマ環境において、制御された実験を行う。例えばプラズマジェットにおいては、すでに複数のジェットを同時に生成する技術を構築しており、液中特有の流動や拡散の影響により流体内で連続的に場が変化するような状況においても、現象を追える手法をとる。この目的には、溶液を中に封じ込めたヒドロゲルを利用する。さらに、バッチ式のOHラジカルの測定方法からフロー方式に変えて連続的にプラズマ生成条件を制御しながら測定できるシステムを構築する。 ラジカル長寿命化に影響すると考えられる反応拠点の探索をすすめながら、それを人工的に作り出すために、リアクタの壁面や放電極表面を有効利用するための改良を行う。さらに従来のリアクタで実現できなかった装置の一体化、界面反応で重要となる壁面の構造(表面積の増大、流れの制御、触媒の装荷)を可能とするリアクタの設計を行う。放電プラズマを水処理に導入するあたり、エネルギー効率を指標として、プラズマによる他の水処理研究と比較するために脱色実験を行い、分解の速度論的検討を各種色素の化学構造との関係から検討する。
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Research Products
(15 results)