2019 Fiscal Year Annual Research Report
自動運転およびディスプレイ用の広角度走査マイクロミラーの研究
Project/Area Number |
17H01267
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
羽根 一博 東北大学, 工学研究科, 教授 (50164893)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 敬 東北大学, 工学研究科, 助教 (60633394)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 走査ミラー / 微小電気機械システム / シリコン / 破壊寿命 |
Outline of Annual Research Achievements |
自動車の自動運転には,小型のレーザ走査型距離センサは不可欠である.一方小型レーザによるレーザディスプレイ用走査ミラー(スキャナ)の実用化も注目されている.本研究では,マイクロマシン(MEMS)技術によるスキャナの小型化および高性能化を目指している.具体的には,これらのスキャナの開発に必要な広い走査角度および高い走査周波数を実現するため,スキャナの広角度時の破壊応力限界を上昇させ,ばねの非線形性を抑えることで,これまでの限界を超えるMEMSマイクロミラースキャナを開発することを目指している. 本年度は,第3年度にあたり,これまでに設計,製作したマイクロスキャナの破壊強度および破壊寿命を向上させるために、原子層堆積法により、均一な膜厚でピンホールのないアルミナ膜をシリコンねじればね表面に堆積した。アルミナ成膜により、ねじればねに発生する内部応力、ばね定数の変化を調べた。アルミナ膜厚は主に2.64nmと10.6nmで実験を行った。ねじればねの残留応力は、わずかに圧縮状態であり、ばね定数への影響は、膜厚が薄いので、極めて少ない。破壊限界まで回転角度を増加して破壊応力を調べた結果、わずかの膜厚であるが、破壊強度に違いが生じることが示された。また、破壊寿命測定のため長期間の測定を行えるよう実験設備を準備した。さらに、自動運転用の全方位走査ミラーをジンバル型において、理論解析した。2軸の運動方程式がコリオリ力のような非線形相互作用力により連成していることが分かり、強い(ソフトスプリング状態の)非線形を示すことを明らかにした。これを回避する2軸の慣性モーメント条件が存在することを見出した。この条件を実現するように2軸の慣性モーメントを調整し、たマイクロ走査ミラーを設計し、試作した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
提案した原子層堆積法によるアルミナ膜のコーティングにより、極めて均一な薄膜をシリコンねじればね表面上に形成できることを見出せたことは、重要な成果である。膜厚は薄いので、コーティングした膜の弾性による破壊強度の上昇は少ないと見積もられたが、わずかな膜厚であっても、破壊強度に差が生じることが示されたことは、膜厚によらない、材料表面との相互作用による効果があると期待される。初期の破壊寿命測定を行ったところでは、寿命が延びている可能性が高いと思われた。さらに印加応力状態を変えて測定を繰り返す必要があるが、重要な成果と考えられた。これらの寿命延長の効果について特許を準備しており、産業的にも重要な成果と考えられる。 自動運転用走査ミラーの設計と試作では、2軸運動を同期させて同じ周波数で振動運転するので、連成運動が顕著に生じると考えられた。これまでの文献で強い非線形性もみられ、良い結果の報告例が、極めて少ないことから、全方位走査駆動の難しさが予想されたので、走査ミラーの剛体運動方程式の導出を試みて、それらの導出に成功した。得られた方程式より、運動の連成の基本特性が予測でき、強い非線形性が存在していることを明らかにできた。また、非線形性を低減できる条件を解析式および数値計算により明らかにできた。特に、2方向の回転慣性モーメントが等しくなる条件では、連成非線形方程式が、線形の2方程式に還元されるので、非線形性が完全になくなると考えられる。この条件となるミラーの形状を見出した。正方形のミラーの場合は、ミラー厚さとミラーサイズ(1辺の長さ)に特別な関係が存在する。また円形ミラーにも同様にミラー厚さと直径の関係を導出できた。これらの解析結果に基づいて、非線形性の少ない全方位走査ミラーをジンバル型において設計し、試作できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
原子層堆積法によるアルミナ膜を走査ミラーのシリコンねじればねにコーティングし、破壊強度と破壊寿命の測定を繰り返し、寿命延長の可能性を追求する。寿命測定は、一般的に、測定ばらつきが大きいので、統計的に優位になるまで、サンプル数を増やす必要がある。このため、破壊試験に使える同じ設計のミラーを多数用意する必要があるが、100個以上のサンプルを確保するため、ファウンダリーを利用して、サイズの大きいウエハにより同一サンプルを多数準備する予定である。これにより信頼性の高い統計結果が得られると考えられる。特に印加する応力により、寿命は決定されるので、産業的に重要な実用応力領域における信頼性の高い測定を目指す。数週間程度の長期間の測定が行えるよう、振幅をフィードバックできる制御回路を設計試作し、安定な長期間測定を実現する。 全方位走査ミラーの研究では、試作したジンバル型の走査ミラーの試作結果を評価し、問題点を修正した改良型の設計と試作を繰り返し、非線形性の少ない安定な全方位走査ミラーの実現を目指す。現状では、2軸ミラーに特有の配線の複雑さ(SOIウエハにおける上層と基板シリコンのコンタクト)を解決できる方法を開発し試作を繰り返す。また、一般に加工条件等から試作後の形状はわずかに設計からずれるので、試作後に2軸の慣性モーメントを修正できる機能(切り離しチップ)を準備しておき、加工後にモーメントを近づけられるようにし、製作誤差の影響を受けにくいように工夫する。ジンバル型の全方位走査ミラーは、構造が複雑で、2軸の慣性モーメントを一致させることが難しい。これに対して、ジンバルレス型の全方位走査ミラーは構造の対称性がよいので、慣性モーメントを調整した試作が行い易いを考えられるので、ジンバルレス型も設計試作する予定である。
|
Research Products
(10 results)