2018 Fiscal Year Annual Research Report
電波や光など様々な周波数帯で利用可能な高秘匿移動通信ネットワーク技術の研究開発
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17H01281
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
佐々木 雅英 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 主管研究員 (50359064)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 隆太郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10334517)
清水 亮介 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (50500401)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 暗号 / セキュリティ / 移動通信ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
移動通信ネットワーク上でどんな計算機でも解読できない安全性を持つ高速な鍵配送を実現するため以下の3項目について取り組んだ。 (1)同報型秘密鍵交換のための理論研究:前年度に開発した情報整合プロトコルを、鍵蒸留基板にプログラム実装し性能評価を行いながらデバグとプログラムの改修を行った。この情報整合プロトコルは、送信者から複数の受信者へ誤り訂正情報を送り、送信者の乱数データに整合させる『前方型情報整合』である。一方、ある一人の受信者から送信者へ誤り訂正情報を送り、その受信者の乱数データに整合させる『後方型情報整合』という選択肢もある。これら2つの方式について、計算機シミュレーションにより優劣を比較した結果、受信者ごとの受信電力がそれぞれ大きく異なる場合、後方型情報整合の方が有利になることが分かった。受信条件に応じた最適な情報整合方式の選定に向けた知見が得られた。 (2)光空間テストベッドでの同報型秘密鍵交換の実験:上記の鍵蒸留基板を光空間テストベッドに組み込んで1対2の同報型秘密鍵交換の動作試験を行い、一定の視野条件が確保できる場合、総損失50dBの通信路においても、パルス送信速度の8割程度に相当する8Mbpsのグループ鍵共有を実現できることを実証した。当該テストベッドには2台の受信機のほか、漏洩情報量を見積もるための仮想盗聴機も設置してあり、3台の装置を用いて様々な大気伝搬条件の下での秘密鍵交換特性を評価した。現在論文執筆中。 (3)無人航空機間での通信方式の基礎検討:電波帯域として、5.7GHzでの回線構成について検討を行った。情報漏洩を抑えるためには指向性の高いアレイアンテナが望ましいが、無人航空機の搭載容量とのトレードオフがあり慎重な設計が必要である。長期的には94GHzなどの高周波側でスロットアレイアンテナ等により高指向かつ小型の回線実装がベストであり、理論検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.「同報型秘密鍵交換のための理論研究」においては、受信者が複数になることで、特性解析は一見複雑になるが、一方で様々な大気伝搬条件下での多様なデータを説明するための統一的な機構の解明が可能となる。また、情報整合における前方型、後方型それぞれの方式が持つ本質的な意味の理解も進みつつあり、広い条件の下での最適化戦略の指針が見えてきた。物理レイヤセキュリティの新分野開拓に繋がる多くの新知見が蓄積されつつある。 2.「光空間テストベッドでの同報型秘密鍵交換の実験」においては、H30年度に1対2の同報型秘密鍵交換の動作試験を行い、7.8kmの水平ビル間リンクにおいて8Mbpsのグループ鍵共有の実証に成功した。これは我々の知りうる限り、これまでの他の電磁波帯域での実験まで含めた場合でも、世界最高性能の同報型秘密鍵交換になっている。さらに、様々な気象条件での光伝播を、複数の受信機で測定し暗号学的計量を用いて定量化することにより、これまでにない大気伝搬特性の計測・評価法とそれを裏付ける膨大なデータが蓄積されており、今後のリモートセンシングの新技術開発も期待される。 3.「無人航空機間での通信方式の基礎検討」においては、これまで理論的な設計検討を行っているが、実際の無人航空機を用いた実験については、機体手配や実験場の確保、電波帯の実験局免許取得手続きなど当初の予想を超える多くの作業が必要となるため、未だ時間を要する見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「同報型秘密鍵交換のための理論研究」 ・適応的鍵蒸留処理技術の研究開発:大気揺らぎにより刻々と変化する通信路の特性に応じて適切な鍵蒸留処理を行い、鍵交換の総スループットを最大化する手法を開発する。具体的には、受信強度が一定の閾値を下回った際の受信データを敢えて削除する手法、また複数受信機の受信電力バランスに応じて情報整合の方式を選択する手法について、鍵交換スループットの評価を数値シミュレーション及び過去の実験データに基づいて行う。最終的には、その検討を元にして最適な鍵蒸留処理を見出し、プログラム実装の設計を目標とする。 ・通信路状態情報を活用した物理レイヤ暗号の基礎理論研究:上記で取り扱った大気揺らぎによる通信路の特性変化を一般化した概念である通信路状態情報(channel state information)を用いた物理レイヤ暗号通信方式の基礎理論の研究を行う。ここでは、鍵共有方式に留まらず、秘匿メッセージ伝送方式やこれら2つの方式を融合した方式について検討し、秘匿伝送及び鍵交換スループットの性能限界の解明に関する研究を行う。 2.「光空間テストベッドでの同報型秘密鍵交換の実験」では上記(1)と連携し、ボブ側からアリス側へ照射するプローブ光とアリス側に設置した大気揺らぎの度合いを計測するセンサからなる、通信路状態情報をモニタするプローブ系を開発する。加えて、上記プローブ系および気象センサ等の情報を過去の鍵交換データと合わせて、機械学習的手法から漏洩情報量を推定する手法について実験的な検討を行う。 3.「無人航空機間での通信方式の基礎検討」では、マイクロ波帯やミリ波帯の指向性アンテナを用いた物理レイヤ暗号通信システムの設計と性能シミュレーションを行う。その結果を元に、市販のマイクロ波帯指向性アンテナを用いてワイヤタップ通信路の模擬実験系を構築し、その基本特性を実験的に評価する。
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Research Products
(4 results)