2017 Fiscal Year Annual Research Report
アト秒パルスラジオリシスによる超高速熱化・緩和過程に関する研究
Project/Area Number |
17H01374
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉田 陽一 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (50210729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 孝文 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50336765)
菅 晃一 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (60553302)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 放射線化学 / 量子ビーム / ナノファブリケーション / 電子加速器 / アト秒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、世界で最も短いアト秒(1000兆分の1秒以下)オーダーの高エネルギー電子ビームを発生させ、超高速時間分解分光法「アト秒パルスラジオリシス」を構築し、これを用いて電子ビームによって引き起こされる超高速反応を観測することにより、イオン化直後の出発活性種を探索して熱化・緩和過程を明らかにし、量子ビームの応用展開に資することを目的とする。 平成29年度は、極短パルス電子ビームの発生方法とパルス幅計測方法の確立と高度化を実施した。それに加えて、現状のフェムト秒パルスラジオリシスにプローブ分子を用いて、種々の直鎖アルカン中でイオン化直後に超高速電子移動する擬自由電子によるラジカルアニオン生成を観測した。 極短パルス電子ビームを利用するためには、再現性良く極短パルス電子ビームを発生させる必要がある。まず、加速器磁気レンズ等各種装置のアライメント最適化を行った。その後、磁気パルス圧縮器における、電磁石磁場設定とパルス幅の関係を比較的広いパラメータ空間でシミュレーションを行い、実際にパルス幅測定実験も行った。その結果、アクロマティック条件が適した条件である事が実験的に示され、更にアクロマティック条件の中でも、極めて狭い範囲に最適な条件が存在することが分かった。また、極短パルス電子ビームのパルス幅測定方法は、必ずしも確立されていなかったので、我々の加速器と発生する電子ビーム、設置場所に適したパルス幅測定方法を確立した。シリコンボロメータとMCT検出器の2種類の異なる波長帯域の検出器を用いて同時計測したことにより、最短3 fsの電子パルスが測定可能な測定系を構築し、11 fsの電子パルスを実測することに成功した。 フェムト秒パルスラジオリシスを用いて、代表的な無極性溶媒であるドデカン中で、従来観測されていた電子の前駆体である擬自由電子が、他の直鎖アルカンでも同様に観測される事が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、極短パルス電子ビームの発生方法とパルス幅計測方法を確立した。物性測定面では、フェムト秒パルスラジオリシスにプローブ分子を用いて、種々の直鎖アルカン中でイオン化直後に超高速移動する擬自由電子によるラジカルアニオン生成を観測しており、おおむね順調に進展している。 極短パルス電子ビームをパルスラジオリシス等に利用するためには、極短パルス電子ビーム発生の理論的な裏付けと、実際に再現よく発生させる必要がある。磁気パルス圧縮器における、電磁石磁場設定とパルス幅の関係を比較的広いパラメータ空間でシミュレーションを行い、実際にパルス幅測定実験も行い、パルス圧縮の最適条件を探索した。また、極短パルス電子ビームのパルス幅測定方法は、必ずしも確立されておらず、我々の加速器と発生する電子ビーム、設置場所に適したパルス幅測定方法を確立した。現在までに最短3 fsまでの電子パルスが測定可能な測定系を構築し、11 fsの電子パルスを実測することに成功している。 フェムト秒パルスラジオリシスを利用した物性測定の課題では、ドデカン中で、従来観測されていた電子の前駆体である擬自由電子が、他の直鎖アルカンでも同様に存在している事が分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、アト秒電子ビームを発生してアト秒分析光に変換し、ダブルデッカーパルスラジオリシシスと等価速度分光法を実装してアト秒パルスラジオリシスを構築し、これを活用して物質中の電子熱化過程とカチオンラジカルの緩和過程を解明する。 アト秒の時間領域では、適切な市販のパルス光源は存在しないという問題が有る。そこで、電子パルスをチェレンコフ放射や遷移放射により、分析光パルスに変換する。紫外からTHz領域の広範な波長領域でアト秒分析光を発生する。 また、電子線パルスと分析光パルスをアト秒精度で同期する必要がある。1つのレーザーパルスを分岐し「ダブルデッカー電子ビーム」を発生し、この電子ビームの一方を分析光に変換し、他方をイオン化源として用いることにより、同期ジッターの発生しない「ダブルデッカーパルスラジオリシス」という新手法を実装する。 また、試料中での電子ビームと分析光の速度差に由来する時間分解能劣化の問題を解決する「等価速度分光法」を実装する。電子ビームと分析光がサンプル中を常に時間的に一致するように電子ビームの進行方向に対する傾きを制御する。この手法を更に発展させて、一発の電子線パルス照射で、活性種の時間挙動を測定するシングルショットパルスラジオリシスを開発する。電子パルスと分析光パルスに傾きを与えることにより分析光パルスの位置に依存した時間遅延を与え、試料の透過光をCCDカメラ用いて2次元検出することにより、スポットの位置から時間情報を得る。 物質中の放射線化学初期過程については、アルカン中でイオン化直後に生成した擬自由電子から捕捉電子の生成過程を直接観測し、イオン化直後の電子の熱化過程を明らかにすると共に、短寿命のカチオンラジカルの前駆体を放射線化学初期過程の新しいスキームを構築する。
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Research Products
(33 results)
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[Presentation] 阪大産研量子ビーム科学研究施設の現状報告2017
Author(s)
古川和弥, 誉田義英, 藤乗幸子, 磯山悟朗, 岡田宥平, 久保久美子, 徳地明, 楊金峰, 近藤孝文, 菅晃一, 神戸 正雄, 吉田 陽一
Organizer
第14回日本加速器学会年会
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