2018 Fiscal Year Annual Research Report
Rapid detection of threat signals in primate amygdala
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17H01381
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤田 一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60181351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 謙一 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90455395)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 扁桃体 / 視床枕 / 上丘 / 狂犬病ウイルス / 表情弁別 / 皮質下経路 / 脅威信号 / 霊長類 |
Outline of Annual Research Achievements |
霊長類で高度に発達した大脳皮質の側頭葉視覚経路(皮質経路)は、視覚像を詳細に分析して、物体や他者を識別・認識する能力を可能にした。一方、より原 始的な皮質下の視覚経路(網膜-上丘-視床枕-扁桃体)は生存に関わる脅威信号を、粗い精度で、しかし素早く処理すると考えられている。この考え(皮質下 迅速経路仮説)は複数の間接的な証拠により支持されているが、ヒトやサルなど霊長類において「網膜-上丘-視床枕-扁桃体経路(皮質下経路)が脅威信号の 検出に関わる」ことの確定的な証拠は得られていない。
前年度、扁桃体ならびに側頭葉視覚経路最終段の下側頭葉皮質の単一細胞および細胞集団の反応を解 析した結果、扁桃体の単一細胞反応に弱いながら短潜時の威嚇表情選択的な反応が見出され、細胞集団の 情報を集めると、明確に威嚇顔の情報を読み出す(デコードする)ことが可能であることが示された。一方、同様の解析を、視覚皮質から扁桃体への唯一の入力源である側頭葉の高次視覚野にも行ったところ、そのような反応は見出されなかった。このことは、側頭葉を介さずに扁桃体へ脅威信号が伝わっていることを示 唆しており、皮質下経路が存在するという仮説を支持している。
皮質下経路仮説のさらなる検証を行うため、本年度は、経シナプス性逆行性トレーサーとして狂犬病ウイルスを扁桃体に注入し、シナプス一つあるいは二つしか超えない生存期間ののちに現れる逆行性標識細胞の分布を調査する実験を開始した。本研究は、京都大学霊長類研究所の高田昌彦教授、井上謙一助教との共同研究である。注入後2日という短時間の生存期間ののち、視床枕に多数の、また上丘に少数の逆行性標識細胞が観察された。前者は1シナプスを超えた標識、後者は2シナプスを超えた標識と考えられ、上丘-視床枕-扁桃体を結ぶ神経経路が存在する強力な証拠が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
京都大学霊長類研究所の共同研究者(高田昌彦教授、井上謙一助教)とともに、本年度に予定していた狂犬病ウイルスを用いた経シナプス性逆行性標識の実験を行った。注入は、視覚入力の到達部位として知られる扁桃体外側部に適切になされ、その注入部位から逆行性に輸送された標識が、視床枕及び上丘に見出された。これらの標識は最大でも2シナプスしか経由していないと想定されることから、上丘から視床枕を経て扁桃体へ投射する経路の存在を示す直接的な証拠が得られたと考える。次年度には、さらにもう一頭の動物において本実験を繰り返し、結果の再現性のテストを行う。初年度の生理学研究の成果に加え、神経解剖学的証拠も得られつつあることから、皮質下経路を通る顔表情処理経路があるとの仮説(迅速処理仮説)の正当性が確認されつつあると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
神経解剖学的実験をさらに追加し、1年度に得た生理学的研究成果とともに論文として公表する。当初目的を計画より早く達成しつつある。今後は、サルの脳の中で顔情報処理を行う経路が、皮質経路のみならず皮質下経路もあることの計算論的な意義づけや、ヒトの脳における証拠を得ることが次の発展方向である。皮質経路を模した深層神経回路と皮質下経路を模した浅層神経回路を構築し、その内部ユニットの性質を調べることで、皮質経路、皮質下経路の情報処理過程を推定するとともに、これら2つの経路モデルユニットに最適化した顔刺激を合成し、心理実験に用いることで、ヒトの顔知覚にも2つの経路が関わっているかどうかの検討を行う。現在、一部、その準備をすでに始めている。
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