2018 Fiscal Year Annual Research Report
KaiC概日時計の動作プログラム:2つのATPaseの協働の生理・生化学的解析
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17H01427
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
近藤 孝男 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (10124223)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / KaiCタンパク質 / 概日時計 / ATPase活性制御 / 機械式概日時計モデル / 時間生物学 / 構造生物化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は3つのKaiタンパク質による概日時計の再構成に成功し、概日時計の特性(24時間周期と温度補償性)が1日当たり10-20分子のATP分解で達成されていることを見出した。その後、ATPase活性の詳細な解析から、概日時計の特性が2つのATPaseの巧みな分業で達成されるという機械式時計モデルを構築した。 本研究ではこのモデルの実体をさらに明確なものにするため、ATPase活性の高精度解析を利用し、これらの機能を担っているタンパク質の内部部位とその動作様式を解明することを目標とした。これによりKaiCタンパク質内に時間測定機構を明らかにすることができよう。 今年度は2つATPaseのカップリングを具体的に示すためCIのゲート機構によってCIIが活性化するタイミングを制御するメカニズムの解明を試みた。得られた結果はKaiA添加によりCIがまず振動を開始し、脱リン酸化後約16時間の決まったタイミングでCIがCIIのリン酸化のゲートを開いてCIIにKaiAが作用できるようにしていることを示唆している。この結果は我々の想定する時計機構の核心であり、新しいモデルに重要な基礎となるので、これを含めた論文を準備している。また2つのATPaseのカップリングに重要なアミノ酸の変異体の解析を進め、その働きを解明し論文を準備中である。さらにKaiC様の時計タンパク質の存在を真核生物で探るためATPase活性に注目してスクリーニングを行なった。その結果、いくつかの候補から安定した微弱な活性を測定でき、今後の解析がまたれるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の解析ではCIとCIIのカップリングのタイミングを解明し、真核生物のKaiC様の時計タンパク質のスクリーニングも進め、生化学的解析の方法を確立した。 まずCIはゲート機構の存在を確認するため、KaiAまたはKaiBを添加するタイミングをずらし、リン酸化および脱リン酸化のタイミングがどのように変化するかを調べた。はじめにリン酸化したKaiCにKaiBを加えて脱リン酸化位相となったKaiCにさまざまなタイミングでKaiAを加えて調べた。脱リン酸化後16時間まではKaiAを加えたタイミングに関わらずKaiCは脱リン酸化を続け、脱リン酸化後16時間後の同じタイミングでリン酸化が始まった。このときATPase活性はKaiAを添加直後に緩やかに上昇し始めた。CIIのATPase活性はリン酸化を促進する事から、KaiA添加直後に上昇したATPase活性はCIのATPase活性に由来すると考えられる。従ってこの結果はKaiA添加によりCIがまず振動を開始し、脱リン酸化後約16時間の決まったタイミングでCIがCIIのリン酸化のゲートを開いてCIIにKaiAが作用できるようにしていることを示唆している。なお、脱リン酸化のタイミングについても同様の結果が得られている。 KaiCのようにATPase活性を基盤とした、転写翻訳に依存しない概日時計因子(ヒトKaiC)は真核生物にも存在する可能性がある。このようなヒトKaiCは安定で、温度に依存しない極めて低い活性を持つと予想される。この可能性を検討するため遺伝子配列データベースからKaiCの特徴を参考に、P-loop (Walker Aモチーフ)を1つあるいは2つ持つATPaseを探し、大腸菌およびヒト培養細胞を用いて高純度のタンパク質を精製し、ATPase活性を調べた。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度の研究は順調に推移しているので今後は概日時計の特性を念頭にあらたな時計モデルの検証を進めていく。まずこれまでの成果をまとめ、新たな概日時計のメカニズムを提案する論文を発表することを進める。また、真核生物の時計タンパク質の解明も大変多くの研究者の興味を喚起するものなので、引き続き進める。ここでは特に生化学的活性測定を丁寧に行い、解析を進める。 さらに以下の3つの計画も継続して進める。 1)CI-CIIカップリングの解析: UPLC法を用いたCIとCIIのATPase活性分離解析を様々な温度条件で検証し、CI-ATPaseの振動とCIIATPaseの振動が我々のCI-CIIカップリングモデルと一致することを確認した。本年度は「KaiAとKaiBの添加による位相のずれ方」に着目し、安定なリズムが発生する経過を解析し、CI-CIIカップリングの時間的プログラムについて解析する。 2)CIIの解析. pHは酵素反応の基礎であり、概日時計の周期決定に大きな影響をもつ。本年度は幅広いpHや温度補償性との関連も知るため、反応液に用いる緩衝液の検討を行ない、様々なKaiAの濃度やpH条件下で周期を調べ、CIIの活性が周期決定に及ぼす仕組みを解明する。 3)位相決定は概日時計の最も重要な機能である。我々の提案する2つのATPase結合モデルは位相決定機構の新たな基礎として重要で、これまで解明出来なかった位相決定の統一的理解を期待させる。そこでKaiCの新しいモデルで位相変位とATPase活性の変動を解析し、同調機構の解明を目指す。
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