2018 Fiscal Year Annual Research Report
小胞体に蓄積した構造異常タンパク質に対処する2つの機構の認識メカニズム解明
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17H01432
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森 和俊 京都大学, 理学研究科, 教授 (70182194)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 構造異常タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞間コミュニケーションにとって極めて重要な分泌タンパク質や膜タンパク質が高次構造を形成する小胞体に、構造異常タンパク質が蓄積すると2つのメカニズムが駆動し、対処する。研究代表者の長年に亘る研究から、構造異常タンパク質の量をモニターして対応するのが小胞体ストレス応答であり、構造異常タンパク質の質をモニターして対応するのが小胞体関連分解であると考えている。後者の場合、細胞にとって極めて有害な構造異常タンパク質が出現すると、通常の手順を踏まずに強制分解する。本研究の目的は、小胞体におけるタンパク質の品質管理において最も難解で、解明の遅れている構造異常タンパク質の認識機構を明らかにすることである。 小胞体ストレス応答が構造異常タンパク質を感知する仕組みについてー小胞体ストレスセンサーIRE1α(Iと略す)とPERK(Pと略す)の小胞体ストレス感知機構が同じかどうか明らかにするために、2つのキメラタンパク質(P-P-I、P-I-I)を作製済みであった。本年度に、IRE1α、P-P-I、P-I-IをIRE1αのプロモーターに繋ぎ、IRE1αIRE1β二重破壊メダカに導入するためのコンストラクトを完成させ、トランスジェニックメダカ作出を開始した。 小胞体関連分解が構造異常タンパク質を感知する仕組みについてーこれまでの解析から、小胞体の中に、タンパク質の構造異常のシビアさをモニターしているProtein Xが存在していることが示唆されていた。既発表論文を精読する内にこのProtein Xの正体に気づき、ヒト大腸がん由来細胞HCT116を用いてその遺伝子破壊細胞を作出した。この細胞ではシビアな構造異常非糖タンパク質の分解が期待通り遅れたことから、さらに詰めの実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IRE1αIRE1β二重破壊メダカは、孵化前に3つの表現型を示し、孵化後、死に至る。すなわち、肝臓(肝臓マーカーFabp10aの発現量が67%低下)、孵化腺(孵化酵素LCEの発現量が60%低下)、脊索(尾が24%短い)それぞれの発達が不十分なためである(eLife, 2017)。小胞体ストレスセンサーIRE1αとPERKの小胞体ストレス感知機構が同じかどうか明らかにするために昨年度に作製したコンストラクトをメダカ受精卵に導入し、何度も交配を重ねて2つのキメラタンパク質(P-P-I、P-I-I)ならびにIRE1αを発現させることができた。 小胞体関連分解において、基質は小胞体膜貫通タンパク質複合体を通って小胞体から細胞質へ逆行輸送される。この複合体のコンポーネントはDerlin1/2/3やHerp1/2のようにファミリーを形成していることが多く、役割分担が不明であった。これまで、ヒト大腸がん由来細胞細胞を用いて、SEL1L、Derlin1, Derlin2, Derlin3遺伝子破壊細胞を作製して解析してきた。これらに加えて新たに、小胞体膜貫通型ユビキチンリガーゼであるHRD1, gp78の遺伝子破壊細胞ならびにHRD1・gp78二重遺伝子破壊細胞を作製し、その解析を開始した。さらに、構造異常糖タンパク質の分解に於いて極めて重要な役割を果たす2段階マンノーストリミングの最初のステップを触媒すると考えているEDEM2が、あるチオレドキシンタンパク質Aとジスルフィド結合を介して複合体を形成していることを見出したので、その意義を解析している。
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Strategy for Future Research Activity |
IRE1αIRE1β二重破壊メダカは、孵化した後に致死となる。これが本研究目的に理想的に合致し、このメダカの胚性期では3つの異なる組織の発達が不十分となる。これらの組織では異なるタンパク質が多量に合成分泌されており(肝臓では血液中を循環するタンパク質、孵化腺ではプロテアーゼ、脊索では細胞外マトリックスタンパク質)、この表現型がIRE1αあるいはIRE1αとPERKのキメラタンパク質(P-P-I、P-I-I)によってレスキューされるかどうかを調べ、生理的発生する小胞体ストレスの感知機構に関する結論、共通なのか異なるのか、を初めて得る。肝臓と消化管で生理的小胞体ストレスを発生させている原因タンパク質としてアポリポタンパク質に着目し、解析する。 作出したProtein X破壊ヒトHCT116細胞に様々な小胞体関連分解基質を発現させて分解速度を測定し、シビアに構造異常となったタンパク質を糖鎖非依存的に分解する機構が失われているかどうか明らかにする。また、Protein Xの ドメイン構造を調べ、構造異常タンパク質の認識に関わっていると考えられるアミノ酸群を徹底的にアラニンスキャンし、Protein X破壊細胞にもどし、強制分解をできるかどうか調べ、構造異常を認識するメカニズムに切り込む。さらに、EDEM2とチオレドキシンタンパク質Aの複合体を精製し、第一段階のマンノーストリミング活性(Man9→Man8)を示すかどうか、調べる。活性があれば、EDEM2の活性中心に変異 (E117Q) を導入し、トリミング活性が失われるか、明らかにする。
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