2017 Fiscal Year Annual Research Report
Characterization of quantitative trait loci regulated by environmental condition.
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17H01458
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 信 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (00270992)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 育種学 / 遺伝学 / 遺伝子 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、環境に呼応して機能を変化させる農業関連遺伝子の単離・解析手法の確立とそれを利用した分子育種である。農業に関連する多くの形質は量的形質であり、その研究は従来QTL解析により遺伝子レベルの研究が進められているが、本研究においてはQTL解析ではなく、ゲノムワイド関連(GWA)解析(Nature Genetics, 2016)により進める。重要農業形質は、気象や土壌と言った外的環境によりダイナミックに影響を受け、環境条件を加味した遺伝解析が強く望まれている。そこで本研究では、外的環境に呼応してその機能をダイナミックに変化させるQTL遺伝子の単離・解析技術を構築し、分子育種に貢献することを目指している。 窒素が出穂に及ぼす影響:日本晴(Hd6-/Hd1+)とNIL(Hd6+/Hd1+)、NIL(Hd6-/Hd1-)、及びNIL(Hd6+/Hd1-)について窒素条件を変えて到穂日数計測を行った結果、日本晴は窒素施肥で出穂遅延したが、すべてのNILは窒素反応しなかった。 Hd6過剰発現体を用いた実験: 35SとトウモロコシユビキチンプロモーターでHd6発現量を変えた形質転換イネを作出し、長日条件下でのHd6発現量・窒素含量と出穂の関係を調査する。これら形質転換体は作成済みであり、現在、それらの後代個体を用いて窒素施肥を変えた条件での出穂状況を観察中。 窒素はどのようにHd6機能を制御するか:以下の実験を行った。①_HD6mRNAは窒素施肥により変動(上昇)しない(要再現性確認)。②_窒素施肥によりFLAG-HD6タンパク質レベルが上昇(要再現性確認)。③_OsPRR37(HD2)レベルはHD6の存在下で窒素施肥により増加する。④_イネ葉鞘プロトプラストを用いたトランジェント実験により、HD1はHd3a(フロリジェン)の発現を誘導する。このHD1によるHd3a発現誘導をHD2は抑制するがHD6は影響を与えない。HD2によるHD1活性促進の効果は濃度依存的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
窒素が出穂に及ぼす影響:日本晴をバックとして、Hd6とHd1の遺伝型を4通りに変えたNIL(Hd6+/Hd1+、Hd6-/Hd1+、Hd6+/Hd1-、Hd6-/Hd1-)を作製し、窒素施肥条件の異なる水田で栽培し到穂日数の計測を行った結果、期待したとおり、日本晴は窒素施肥により出穂が遅延するのに対し、すべてのNILの出穂は窒素に対して反応しなくなった。 Hd6過剰発現体を用いた実験:異なるプロモーター(35Sとトウモロコシユビキチンプロモーター)の制御下にHd6cDNAを接続し発現量を変えた形質転換イネを作出し、長日条件下で栽培を行いHd6発現量・窒素含量と出穂の関係を調査する。Hd6cDNA及びHd2cDNAを日本晴に導入した形質転換体は作成済みであり、現在、それらの後代個体を用いて窒素施肥を変えた条件での出穂状況を観察中である。 窒素はどのようにHd6機能を制御するか:これまでの予備実験により、窒素量増加により(恐らく)Hd6機能が強化され、結果として出穂が遅延すると予想した。これを確認するべく、以下の実験を行った。①_HD6mRNAは窒素施肥により変動(上昇)しない(要再現性確認)。②_窒素施肥によりFLAG-HD6タンパク質レベルが上昇(要再現性確認)。③_OsPRR37(HD2)レベルはHD6の存在下で窒素施肥により増加する。④_イネ葉鞘プロトプラストを用いたトランジェント実験により、HD1はHd3a(フロリジェン)の発現を誘導する。このHD1によるHd3a発現誘導をHD2は抑制するがHD6は影響を与えない。HD2によるHD1活性促進の効果は濃度依存的である。 以上の結果から、窒素施肥による出穂遅延は「HD6のリン酸化活性が窒素により活性化しHD2のリン酸化状態を上昇させ、HD1活性に影響を与えた結果、Hd3aの発現を抑制する結果、出穂が遅れる」という作業仮説を強く支持する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までにHd6が窒素に呼応して出穂を遅延させることを確認した。さらに、種々のNILを用いて窒素施肥条件の異なる水田で栽培し到穂日数の計測を行った結果、予想通りにN量増加による出穂遅延にはHD6, HD2及びHD1が必須であることが示された。これらの結果から、N量増加はHD6(リン酸化酵素)の活性増大を誘導し、HD2タンパク質のリン酸化を引き起こし、その結果、HD1を介してHd3aの転写活性を抑制するという作業仮説が強く示唆された。今後は、この作業仮説を分子生物学的・生化学的に証明するべく以下の実験を行う。 Hd6過剰発現体を用いた実験:昨年度に作製した35S又はトウモロコシユビキチンプロモーター制御下でHd6cDNAを発現させた形質転換イネを用いて、長日条件下でのHd6発現量・窒素含量と出穂の関係を調査する。上記のモデルからHd6発現量を増加させた個体は窒素施肥により到穂日数を大きく遅延させることが期待される。 窒素はどのようにHd6機能を制御するか:これまでの結果から、N増加はHd6活性増加を誘導し出穂が遅延すると考えられる。昨年度の結果から、HD6転写はN量で変化しないことが確認された。そこで本年度は、HD6タンパク質のN量による変動についてHD6抗体を用いたイムノブロットやタグ付きのHD6タンパク質を発現させた形質転換体を用いて検討すると共に、活性レベルの制御についてもin vitroでのHD6のリン酸化活性を測定することにより、HD6活性増大の要因について検討する。 さらにHd3aプロモーター内の転写制御因子をLuc遺伝子プロモーターに用いたレポーター遺伝子を作製し、イネプロトプラスト内での転写がHD1、HD2、HD6の存在でどのように制御されるかを確認する。上記の仮説が正しいなら、HD2はHD1活性を抑制的に制御し、HD6はHD2活性の活性化を導くことで抑制活性の上昇をもたらすことが期待される。
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