2019 Fiscal Year Annual Research Report
心筋梗塞後の線維化における筋線維芽細胞と各種細胞の役割および相互作用の解明
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17H01525
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
黒瀬 等 九州大学, 薬学研究院, 教授 (10183039)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長坂 明臣 九州大学, 薬学研究院, 助教 (10723877)
仲矢 道雄 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (80464387)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 内皮細胞 / 阻害薬 / バイアス型阻害作用 / プロトン感知性受容体 / Gタンパク質選択的受容体 / G12ファミリー / 心筋梗塞 |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋梗塞時に生じる各種細胞間の相互作用を明らかにすることが目的の一つである。心臓には、心筋細胞のほかに炎症細胞、筋線維芽細胞や内皮細胞などが存在している。申請者の研究室では内皮細胞に発現するプロトン感知性受容体GPR4の役割について検討している。本年度は、プロトン濃度の上昇がGPR4の活性化を介して炎症にかかわっていることを個体レベルで示すために、GPR4をプロトン非感受性にしたマウスを作製中である。GPR4の細胞外領域の3か所のヒスチジン残基に変異を導入すると、プロトンに応答しなくなる(プロトン非感受性になる)ことから、CRISPR/Cas9を用いてin vivoで直接変異を導入している。GPR4はGs、GqおよびG12の3種のGタンパク質ファミリーを活性化することで、応答を引き起こす。GPR4の阻害薬は心筋梗塞時の炎症を抑制することから、心筋梗塞の予後を改善することに貢献できるではという期待から、阻害薬のスクリーニングを行い2種の化合物を得た。2種の阻害薬のうち、一つはGsをほぼ完全に阻害したもののGq/G12に対する阻害は部分的であった。この阻害薬は、活性化する数種のGタンパク質のうち特定のGタンパク質を抑制しにくいことを示している。すなわち、阻害様式がバイアスを示すのである。この阻害薬を詳細に解析することで、バイアス型阻害薬という新たな概念を提唱できると期待している。現在、阻害薬の作用部位がGPR4に存在すること、またどの部位に結合しているのかについて検討している。さらに、内皮細胞や筋線維芽細胞でのG12ファミリー(G12とG13がファミリーの構成員)のシグナリングを解析するために、G12およびG13を選択的に活性化する受容体も作製中である。報告されているG12選択的受容体にはG12選択性が見られなかったため、新たな受容体を作製している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GPR4は内皮細胞選択的に発現し、心筋梗塞時に生じるプロトン濃度の上昇を接着因子の発現増加へとつなぐ受容体として働いている。すでに、GPR4が心筋梗塞時にはプロトン濃度が上昇し接着因子の発現に関与していることを見出しており、プロトン非感受性GPR4の変異体も作製している。しかしながら、マウスの個体で、GPR4がプロトン濃度の上昇を感知し接着因子の発現を介して炎症応答の誘導にかかわっていることを示す必要がある。プロトン非感受性GPR4発現マウスを作製するために、マウスゲノムに直接変異を導入できるCRISPR-Cas9を用いた方法を利用している。CRISPR-Cas9を用いた方法でも、とくに通常よりも短期間で変異マウスを作製できるi-GONAD法を用いている。マウスの作製と並行して、GPR4阻害薬の解析も進めている。プロトン濃度の上昇は蛍光や発光シグナルを消失させるため、GPR4阻害薬の作用部位を決定するためには蛍光や発光によらない受容体とGタンパク質間の相互作用解析系の確立が必要である。本研究では、PRESTO-TANGO法を改変した方法を計画しており、これはプロテアーゼによって切断された分子をWestern blotにより検出するという点に特徴がある。阻害薬の作用として、特定のGタンパク質の活性化を選択的に阻害するという作用機序は新しく、バイアス型阻害薬あるいはバイアス型拮抗作用という新たな概念を提唱できると考えている。さらに、G12ファミリーに属するGタンパク質の内皮細胞あるいは筋線維芽細胞での細胞内シグナリングを解析するために、G12およびG13を選択的に活性化する受容体を作製した。しかしながら、選択性の低い受容体は作成できたものの、高い選択性をもつ受容体は作製できていない。これまでに作製したキメラ受容体をもとに、より選択性を上げた受容体を作製しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
内皮細胞に発現するGPR4のプロトン感受性を消失させるため、GPR4のゲノムに3つの変異を導入したマウスを作製する。マウスの作製期間を短縮させる新たな試みとしてi-GONAD法を利用している。現在、変異の導入は進行中である。また、GPR4阻害薬の解析については、次の問題点があることが明らかになった。すなわち、受容体とGタンパク質との相互作用の解析には、FRETやBRETを用いた多くの評価法があるものの、これらのシグナルはプロトン濃度を上昇させると消失することから利用できないことが明らかになった。さらに、Gタンパク質の下流で制御されているレポーター遺伝子の活性測定では、阻害薬の作用部位が受容体にあることを示せない。そこで、これらの手法によらない新たな受容体とGタンパク質との相互作用の解析法(PRESTO-TANGOの改変法)を確立中である。さらに、内皮細胞や筋線維芽細胞でのG12とG13を介した応答を解析するために、G12およびG13選択的な受容体の作成も行っている。これまでに50種近くのキメラ受容体を作製したものの、GsやGqを活性化せずG12あるいはG13のみを選択的に強く活性化する受容体は得ていない。G13に弱いながら選択性を示す受容体は得ているので、この受容体をもとにG13選択的な受容体を作製しつつある。また、近年報告されたG12選択的な受容体はGqも活性化することを見出しており、本研究に用いることができない。我々は50種近くのキメラ受容体のうち、G12に弱いながら選択性を示す受容体も見出している。この受容体をもとにG12に選択性性をもつ受容体も並行して作製する。また、並行してsiRNAにてG12あるいはG13をノックダウンさせた内皮細胞や筋線維芽細胞を用い、G12およびG13の下流のシグナルを解析するためにリン酸化プロテオミクスも計画している。
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Research Products
(7 results)