2019 Fiscal Year Annual Research Report
酸素同位体観測による南極沿岸海洋への氷床融解水流入の直接評価
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17H01615
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
青木 茂 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (80281583)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田村 岳史 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (40451413)
松村 義正 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70631399)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環境変動 / 酸素安定同位体比 / 南極海 / 氷床融解 / 海氷生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
南極氷床の流出が、地球の海水位上昇の加速に寄与し、南極底層水形成過程を通して海洋深層循環にも影響を及ぼすことが懸念されている。しかし、近年指摘される東南極氷床の流出・融解と海洋との関わりについては未だ十分な現場観測がなされず、また氷床を取り巻く南極海での融解水増加については直接評価がなされていない。融解水の特定に不可欠な特殊トレーサー観測も不足している。本研究では南極沿岸主要域を網羅する世界初の国際観測ネットワークを構築し、融解水の定量化に最適な酸素安定同位体比(δ18O )を含む現場海洋観測を実施する。淡水起源の周極的な分布を捉え、同時に時間変化を求めることで、氷床融解水の沿岸海洋への影響の直接評価を目的とする。 ドイツ・韓国といった諸外国との国際的な共同研究により、ウェッデル海やアムンゼン海における観測試料の取得に成功し、周極的にみて重要な海域の多くにおいて試料を取得することができた。国内他機関との連携も進んでいる。これにより、国際的なδ18O観測ネットワークの構築が実現しつつある。また諸外国によって過去に取得されたデータセットの整備も進めている。これらの比較により一部の海域では、20~40年間の時間的なδ18Oの変化の情報が得られつつある。 また塩分の時系列データから、淡水量変化の解析を実施し、海氷生産も含めた淡水量増加の実態把握を進めている。これらにより氷床融解の加速が海水位上昇や深層循環変動に及ぼす影響の実態把握に貢献することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の骨格は、南極沿岸主要域を網羅する国際観測ネットワークを構築し、現場海洋観測に基づく酸素安定同位体比δ18O の評価を拡充することにある。 これまで、国際共同観測研究により現場での海水試料を取得するとともに、過去に取得した海水試料の集積と分析を順調に進めてきた。昨年度は、しらせ、みらい、白鳳丸、海鷹丸による4つの国内外共同観測により、東南極沿岸域における良質な試料の取得に成功した。特にしらせによる観測では、日本南極地域観測によりトッテン氷河沖のこれまで試料の取得されていない多年氷海域における採水観測に成功した。取得試料の分析も鋭意進めているが、特に2018年の韓国との共同観測により得られたアムンゼン海や日本南極観測で得た試料の分析が進展した。これらにより、周南極的にみて重要な海域の多くにおいて試料採取をさらに充実させることができ、日本が中心となる東南極沿岸での試料の採取が大きく進展した。結果の比較により、ウェッデル海やアムンゼン海を含む一部の沿岸海域海域では、20~40年間の時間的なδ18Oの変化が得られると期待される。東経110度近傍でも、10年を超える期間の変化が得られることになる。 得られた資料の解析から、南極沿岸域主要部での時間変化を調べたところ、ロス海でもっともδ18Oの変化が大きいことが示唆された。加えて、アデリーランド沖でも比較的強い変化傾向がみられた。こうした変化傾向は、大陸氷床からの淡水流出の増加と整合的である。またケープダンレー沖で得られた一年間にわたる時系列採水試料の結果からは、塩分の経年的な変化に陸氷融解成分が寄与している可能性が示唆された。 また、数値実験による解釈を目指した基礎的な研究として、構築した数値実験により、南極底層水の広がりに対応して水塊の広がる様子を再現し、氷床沿岸海域での融解水流出パスの再現という成果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度もひきつづき南極沿岸主要域を網羅する国際観測ネットワークによる試料取得と分析、データ解析を進展させる。試料取得のなかでは継続観測線として、東経110度付近での海鷹丸による連続観測により海水サンプルを取得することをめざす。これにより、沿岸主要域およびその周辺海域におけるデータセットの完成をめざす。 前年度までにウェッデル海においてドイツ砕氷船Polarstern により取得した試料、および西南極アムンゼン海において韓国砕氷船Araonにより取得した試料の分析を終え、過去の値との比較を実施する。開洋丸によるオーストラリア-南極海盆を網羅するグリッド観測により取得したサンプルについても分析をすすめる。これ以外にも、英国などの研究者と協同で、保持している試料の分析をすすめ、周極的なデータの完備を計る。 試料分析の速度を向上させるため、新たな分析法のプロトコルを確立する。特に、キャビティ―リングダウン分光法による海水試料の質量分析の高精度化を模索し、その精度定量化とともに収集される試料の高速分析を目指す。これらにより得られた資料をもとに、氷床融解成分の長期的な変化に関する解析をさらにすすめる。 また、人工衛星観測により導出した海氷生産の時系列を、アデリー海岸においてもすすめ、ローカルな氷河舌の崩壊後における、海氷生産と陸氷融解の進展について検討する。陸氷融解流出の理解のため、海洋への淡水供給過程の数値実験による解釈を目指した基礎的な数値実験結果にもとづき、融解水トレーサーの海洋内部における挙動を調べる。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Saroma-ko Lagoon Observations for sea ice Physico-chemistry and Ecosystems 2019 (SLOPE2019)2020
Author(s)
Nomura, D., P. Wongpan, T. Toyota, T. Tanikawa, Y. Kawaguchi, T. Ono, T. Ishino, M. Tozawa, T.P. Tamura, I.S. Yabe, E.Y. Son, F. Vivier, A. Lourenco, M. Lebrun, Y. Nosaka, T. Hirawake, A. Ooki, S. Aoki, B. Else, F. Fripiat, J. Inoue, M. Vancoppenolle
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Journal Title
Bulletin of Glaciological Research
Volume: 38
Pages: 1-12
DOI
Peer Reviewed
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