2017 Fiscal Year Annual Research Report
Geoarchaeology of pit-agricultural landscape and climatic disasters of Oceanic atolls
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17H01647
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山口 徹 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (90306887)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山野 博哉 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 研究センター長 (60332243)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ジオアーケオロジー / 景観史 / 気象災害 / レジリエンス / 環礁 / オセアニア / クック諸島 / 天水田 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、オセアニアの環礁社会を支える天水田の構築・放棄・修復・再利用にかかわる動態(景観史)を気象災害との関連において解明することである。調査地の北部クック諸島プカプカ環礁は、クック諸島の首府が置かれるラロトンガ島から直線距離で1100kmほど北に位置する離島で、2005年2月末にサイクロン・パーシーの直撃を受けた島である。2017年度は8月に2週間にわたって現地調査し、天水田の空間分布や水質、利用/放棄の状況を観察した。また、プカプカ環礁の社会組織とサイクロン・パーシー後の復興プロセスの把握、天水田の利用・管理とかかわる墓域の分布調査を実施した。 サイクロン・パーシーは最大瞬間風速118mに達した大型サイクロンで、プカプカ環礁に甚大な被害を与えた。離島ゆえに緊急援助物資の輸送にも困難を極めたが、ほとんどの家屋がトタン屋根を吹き飛ばされたために雨水を集められず、1ヶ月もしないうちに飲料水不足が深刻化したという。しかし、それ以上に長期にわたった問題は、高潮が海岸線を超えて天水田に侵入したため、環礁州島の地下水レンズが十分に淡水化するのにおよそ1年を要したことだった。2017年8月時点では、被災からすでに12年が経過しているにもかかわらず、タロイモやミズズイキ類の植付けには天水田全面積8.5haの半分程度しか利用されておらず、耕作放棄地にはアカバナ科キダチキンバイが群生していた。水田表層水の塩分濃度は十分に低く、根茎類栽培への問題は認められなかった。おそらくは、被災後に島民人口が減少したことと関係すると考えられる。 いずれにしても、気象災害に対するこうした脆弱性を踏まえると、島外からの緊急援助が期待できなかった先史期の復興過程を解明することは、地球温暖化による気象災害連鎖の渦中にある環礁社会のレジリエンス(回復戦略)策定という現在的課題にも役立つと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年3月にクック諸島の首府、ラロトンガ島にて事前調査を実施した。特に、南太平洋大学ラロトンガ校ならびにラロトンガ在住プカプカ島民コミュニティにて研究調査の目的についてプレゼンテーションを行い、現地社会との良好な関係を築くことができた。本研究プロジェクト開始後にクック諸島政府から5年間の調査研究許可を順調に取得し、2017年度は、7月31日-8月23日に正味3週間の日程で現地調査を実施した。調査期間の内訳は、プカプカ環礁の調査に2週間、ラロトンガ島での情報収集に1週間である。 2017年度のプカプカ環礁調査は天水田の現状把握を中心に進めた。プカプカ環礁を構成する3州島のうち主島ワレ(Wale)では、簡易GPSを用いて天水田の空間分布を記録するとともに、簡易塩分濃度計を用いて表層水の水質を記録した。また、プカプカ環礁の社会組織とサイクロン・パーシー後の復興プロセスに関わる情報を収集するとともに、天水田の利用・管理とかかわる墓域(po)の空間分布を簡易GPSで記録した。 天水田の分布調査では、面積140haの州島ワレに大小合わせて80基/区画以上、総面積8.5haにもなる天水田が存在し、周囲に積上げられた廃土の堤が縦横に伸びていることを確認できた。ただし、タロイモあるいはミズズイキ類が植え付けられている天水田は総面積の半分程度であった。州島ワレの集落はラグーン側にあり、その後背地はモトゥ(motu)と呼ばれる資源保護区(共有地)となっている。その資源保護区に、放棄天水田が未だに多いことを確認した。 調査後は、2018年度以降の現地調査のための基礎資料を構築するため、各天水田のGPSデータをポリゴン化し、プカプカ環礁の高精細衛星画像と関連付けてGISを作成した。また、第35回日本オセアニア学会研究大会(沖縄海洋博公園)にて、2018年度調査の概要と成果を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の現地調査は、天水田の構築・放棄・修復・再利用の動態を解明するジオアーケオロジー調査を中心にすえ、それとの関連で地球科学ならびに文化人類学的調査を展開する。具体的な調査期間は2018年7月30日(月)-8月30日(木)の1ヶ月を予定し、研究分担者ならびに連携研究者合わせて4名でプカプカ環礁の文理融合調査を実施する。具体的な調査項目は以下の3点である。 ①2017年度の調査によって、天水田の地形が「手間のかけられてきた」人為景観であり、複数の区画をもつ大型天水田と、擂り鉢状の小型天水田が入り組んで分布することを確認できた。そこで、それぞれのタイプの天水田からサンプル地を選択し、周りに積み上げられた廃土堤の試掘調査を実施する。これによって、天水田の構築・放棄・修復・再利用にかかわる情報を収集する。 ②2017年度調査では、離水したハマサンゴ属のマイクロアトールを確認し、サンプル試料の年代測定によって4000-4500cal.BPの結果をえた。完新世中期以降の相対的な海面変動は、人間居住の基盤となる環礁州島の地形形成史を考える上で必須となる。①と連携しながら州島堆積物を採取するとともに、離水マイクロアトールの探索/採取を実施する。また、大型サイクロンの来襲頻度を推定するために、外洋側リーフ上でサイクロン石(津波石)の探索も実施する。 ③2005年2月のサイクロン・パーシー以降の長期的な復興過程について、聴取調査を中心に情報収集する。特に、復興・再利用が進められてきた天水田の順番や、植付け再開のための技術的な工夫、再利用の開始や作業配分にかかわる意思決定プロセスを明らかにする。 なお、2018年度調査の成果は、2018年9月25日‐28日に福岡で開催される第4回世界社会科学フォーラム、ならびに日本サンゴ礁学会、日本オセアニア学会での研究発表を通して公開する予定である。
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Research Products
(8 results)