2019 Fiscal Year Annual Research Report
「問題を捉える視点」の習得を促進する問題演習システムの設計・開発と効果の検証
Project/Area Number |
17H01839
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
堀口 知也 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (00294257)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平嶋 宗 広島大学, 工学研究科, 教授 (10238355)
東本 崇仁 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (10508435)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 知的学習支援システム / 科学教育 / 問題演習 / 問題系列化 / 説明生成 / 知識工学 / 構造写像エンジン |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らはこれまでに物理問題をその対象系のモデルに基づいて特徴付ける枠組みであるマイクロワールドグラフ(GMW)を提案し,これを用いて学習状況に合わせて問題を適応的に系列化し,かつ問題間の差分を説明する機能を持つ学習支援システムを実現しており,教育現場での試験的利用を通して,それが領域の深い理解を促進するとの知見を得ている.しかし,これまでの研究は個々の解法や原理の習得には適しているものの問題を捉える視点(定式化の方法)を選択する能力の習得に関しては不十分なものであった.問題をどう定式化するかによって同じ問題であっても利用可能な解法や原理が変わるため,この視点を選択する能力はきわめて重要となる.本研究では,(1)「問題を捉える視点の選択能力の習得」に必要となる複雑な問題系列を取り扱えるようシステム機能の拡張を行うと共に,(2)実験用教材を効率的に作成するための支援ツールを開発して検証実験の基盤を整備する.さらに(3)現場での実験的・試験的利用を通した評価と, (4) データに基づく「問題を捉える視点」に関する認知的モデルの構築をも目指している. 平成31/令和元年度は上記(2)を実施した.すなわち「問題群をGMWとして組織化するためのオーサリングツール」を開発・評価した.GMWにおいては,何らかの意味で教育的に有用な「類似性」を持つ問題同士はリンク付けされている必要があるが,これを人手で行うことは難しい.そこで,これまでに実現した問題同士の差分を自動診断・説明する機能を用いて,対話方式でオーサが問題群をGMWとして組織化するための支援ツールを開発した.大学生を被験者とする教材作成実験を実施したところ,検証用に用意した問題十数例のほぼすべてにおいて,特別の困難なく問題記述を行うことができ,本ツールの有用性が示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31/令和元年度は,(2)実験用教材を効率的に作成するための支援ツールとして,問題群をGMWとして組織化するためのオーサリングツールを開発・評価した.問題系列において隣接する問題同士は,何らかの意味で教育的に有用な「類似性」を持つ必要がある.GMWではそのような問題間に予めリンクを付けておき,適切なリンクの選択を繰り返すことで一定の学習目標を達成し得る問題系列を生成する.現在はこのリンク付けをすべて人手で行っているが,この作業は非専門家にはきわめて困難である.そこで本研究では,次のような方法で支援を行う.(1)所与の問題群からオーサが選んだ一つの問題を起点とする.(2)その問題と他のすべての問題との類似度を構造写像エンジンによって計算し,閾値内の各問題について起点との差分の説明を生成する(平成29年度に開発した説明生成器を用いる).(3)オーサは各説明を参照して教育的に有用と判断される問題と起点との間にリンクを付ける.(4)リンク付けされた各問題を新たな起点として(1)~(3)を繰り返す.類似度の計算では,モデル導出過程の注目する部分(問題状況(表面的特徴)や適用原理(問題構造の特徴)等)を様々に選ぶことで,複数の観点からの比較を実現する.このようにして,作成された問題群をGMWとして組織化するための対話方式の支援ツールを実現し,非専門家によるGMWの作成を可能とした. 研究代表者および分担者による動作検証を経て,大学生を被験者とする教材作成実験を実施したところ,前年度に作成した問題群のほぼすべてにおいて,特別の困難なくGMWの作成を行うことができた.その組織化の妥当性について研究班全員で確認し,本ツールの有用性が示された.このことから,本研究はおおむね順調に進捗していると言うことができる.
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は,システムの実験的・試験的利用を通して適応的問題系列化の基礎となる認知モデルを構築する.先行研究では,問題系列が仮説通りの学習効果を持たない例が少なからず見られた.例えば,表面的特徴が類似しているが適用すべき原理は異なる問題を並べた表層系列は,当初の仮説では「適切に視点を設定して問題構造を正しく捉える」能力の習得に貢献するとされていたが,単純な問題のみからなる系列ではこのような高度な理解に到らなかった.そこで,表面的・構造的の特徴の他,問題の複雑さや学習者の気づき等の要因を考慮したより精密な仮説を構築して種々の問題系列の学習効果を測定する実験を計画・実施し,仮説の検証・洗練を行う.具体的には,大学初級物理を対象としてシステムの実験的利用を実施する(学習者の気づきは,説明の有無や詳細度を調整して制御する). 実験的利用は,大学一,二年生から被験者を募り,研究室にて個別実験を行う.事前/事後テストおよびアンケートにより学習効果を測定すると共に,システムログ,発話思考法,調査紙,インタビュー等によって詳細なデータを取得する.実験の実施は,研究代表者および研究代表者の雇用する大学院生二名が担当する.実験において用いる教材やテストの作成に必要となる大量の問題群は,前二年度に開発するオーサリングツールの試験的利用を通して蓄積・構築された問題データベースから選定する.仮説の構築と検証は,類推に関する計算モデルに関して深い学識を持つForbus,Gentner両教授(研究協力者)の協力を得ながら研究代表者が中心となって行い,問題の適応的系列化の基礎となる認知モデルの構築を目指す.
|