2018 Fiscal Year Annual Research Report
海洋酸性化に伴う微生物起源温室効果気体の生成過程の量的および質的変化の解明
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17H01851
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
豊田 栄 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30313357)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉川 知里 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 技術研究員 (40435839)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 一酸化二窒素 / 安定同位体 / 海洋酸性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、微生物起源微量気体である一酸化二窒素(N2O)の放出量やその生成・消滅過程が海洋酸性化にどのように応答するかについて、実験室で行う微生物純粋培養実験および船上で行う現場海水を用いた培養実験で濃度と安定同位体比を分析することによって明らかにすることを目的としている。2018年度は以下のように研究を進めた。 前年度に整備した、ジャーファーメンターと赤外分光式多成分ガス分析計からなる純粋培養システムを用いて、海洋性硝化細菌(Nitrosococcus Oceani NS58株)の純粋培養実験を行った。初期アンモニア濃度38 mmol/L、25℃、酸素飽和条件下でpH=8.3, 8.0, 7.7の3条件で培養して、連続的に観測したN2O濃度からN2O生成速度を求め、随時採取した大気試料を分析してN2O同位体比を求めた。 pHの減少に伴って細胞当たりのN2O生成速度が増加することが明らかになった。一方N2O同位体比は、酸素同位体比ではpHによる相違は認められなかったが、窒素同位体比および分子内席選択(SP値)は低pHでそれぞれ減少、増加を示した。またSP値は、酸化的環境での主要なN2O生成過程であるヒドロキシルアミン(NH2OH)経由の過程で予想される値よりも常に低い値を示した。3種の同位体比の結果を総合した解析から、他の生成過程の寄与率増加よりも、NH2OH過程の同位体効果がpHによって変化する可能性が高いと推定した。 東京大学大気海洋研究所の白鳳丸航海(KH-18-6)に参加して、ベンガル湾および東部熱帯インド洋において硝化菌の活性が最も高いと予想される水深で採水を行い、船上で15N標識した試薬を加えて酸性化を模擬した培養実験を行った。東部インド洋におけるN2Oの濃度および同位体比分布についても併せて調べるため、複数の測点、水深における海水試料採取も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験室での純粋培養実験は、培養条件の最適化に当初予想よりも時間を要したためにやや遅れが生じたが、硝化菌が最も増殖しやすいと考えられる基質、溶存酸素濃度におけるN2O生成速度および安定同位体比のpH依存性を明らかにすることができた。 船上で行う培養実験については、計画通りに試料採取と実験を行うことができた。航海スケジュールの都合上、試料が研究室に届くのが年度末になったので、次年度に分析および解析を進める。 以上のようにほぼ計画通りに実験室および船上での実験を進めることができたので、おおむね順調に進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験室での純粋培養実験については、溶存無機炭素濃度、溶存酸素濃度、基質(アンモニア)濃度などのpH以外の条件が硝化菌によるN2Oの生成にどのような影響を与えるのかについても検討しつつ、種々の条件を設定して海洋酸性化を模擬した実験を行い、N2O生成速度と生成過程についての解析を進める。 船上で行った培養実験試料の分析と解析を行うことにより、硝化速度およびN2O生成速度とそのpH依存性を調べる。複数の測点で行った実験の比較や、N2O濃度および同位体比の水平・鉛直分布との関係についての考察も行う。 二つの手法で得られた結果をもとに、硝化細菌の海洋酸性化に対する応答について総合的な考察を行い、将来予測を試みる。
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Research Products
(4 results)