2017 Fiscal Year Annual Research Report
森林源流域から進行する窒素飽和メカニズムの解明と森林炭素蓄積能力への影響評価
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17H01868
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
堅田 元喜 茨城大学, 地球変動適応科学研究機関, 講師 (00391251)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福島 慶太郎 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 特任助教 (60549426)
小嵐 淳 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (30421697)
山口 高志 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 環境・地質研究本部環境科学研究センター, 研究主任 (90462316)
渡辺 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (50612256)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 窒素負荷 / 物質循環 / 森林源流域 / 多地点観測 / 大気アンモニア / 乾性沈着 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球規模で問題となっている大気中の反応性窒素の生態系への過剰負荷による窒素飽和は、自然の窒素循環を乱して富栄養化をもたらすだけでなく、森林の炭素蓄積機能にも影響を及ぼす。しかし、森林への窒素負荷をもたらす窒素沈着量は、集水域内でも空間的ばらつきが極めて大きく、従来のように限られた一地点でのモニタリングから窒素負荷の影響を評価することは難しい。本プロジェクトでは、源流域から窒素飽和が進んでいる森林集水域において、大気・土壌・植生・河川を包括した窒素・炭素循環の多地点同時観測を行い、大気から森林への窒素負荷の空間分布を評価する。さらに、窒素負荷と渓流水質の関係に基づいて窒素飽和の進行メカニズムを解明し、窒素負荷の度合いに応じて樹木や土壌の炭素蓄積機能がどのように変化するかを明らかにすることを目指す。本年度は、北海道東部の京都大学フィールド科学教育研究センター標茶研究林にある放牧地に隣接した森林集水域での大気アンモニア濃度・林内雨・渓流水質の多地点観測を行った。定点観測の期間は2017年5月から10月であり、微気象要素・大気アンモニア濃度・林内雨量・雨水中窒素濃度を観測した。また、2017年8月6日および10月5日には、コアサイトの集水域で渓流水中無機窒素濃度を測定した。得られたサンプル中の無機イオン濃度は、北海道立総合研究機構ならびに茨城大学でイオンクロマトグラフ法により定量した。その結果を解析したところ、林縁の窒素負荷量は林内のおよそ2倍になることと、その原因の一つとして農牧地由来の大気アンモニアの乾性沈着が考えられることがわかった。得られた成果を第65回日本生態学会大会等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、当初予定していたコアサイトである北海道東部の標茶研究林における大気・集水域定点観測と多地点水質観測を順調に行うことができた。定点観測では、窒素負荷や水質汚染度と森林炭素収支の季節変化を把握するための大気中のアンモニアガスと霧水中のアンモニウム成分濃度、林内雨の観測を樹木の生育期を通じて行うことに成功した。また、植物生育期で農業活動が活発になる春から秋にかけて、コアサイトのいくつかの集水域で多地点水質観測を行い、同一集水域内で渓流水質が明瞭に異なる地点を抽出し、次年度以降の大気-土壌-植生系の本観測を行う上で適切な集水域を決定することができた。さらに、予備観測の結果から林縁の窒素負荷量は林内のおよそ2倍になることと、その原因の一つとして農牧地由来の大気アンモニアの乾性沈着が考えられるという学術的価値の高い結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、平成29年度に選定したコアサイトにおける6つのプロットで、大気-土壌-植生系の多地点同時観測を行う。大気中濃度と森林への窒素負荷量の観測では、森林の影響が少ないと思われるギャップ等に簡易自動気象測定システムとパッシブサンプラーを複数台設置し、沈着量を見積もるための気象要素と無機窒素成分の大気濃度を測定する。また、複数の雨量計とバルクサンプラーを用いた林内雨の測定によって、森林樹冠への窒素沈着量を測定する。負荷された窒素の植物・土壌への分配の観測では、生葉やリター、土壌試料を採取し、採取した試料の炭素・窒素・リン含有量および比と、土壌水の無機窒素濃度などを測定する。さらに、降水・林内雨・渓流水の窒素や酸素、渓流水の溶存有機炭素の同位体比を測定する。土壌呼吸と土壌有機物動態の観測では、土壌試料を化学的方法または物理的方法で分画した後、各有機物画分の炭素含有量、安定炭素・窒素同位体比を測定する。必要に応じて、土壌pH、微生物バイオマス炭素量、微生物群集構造等の土壌有機物動態に影響を及ぼしうる土壌・微生物特性の分析を行う。樹木光合成および活性と群落構造の観測では、樹木の葉の生理特性や形質、窒素負荷量の空間分布や葉群光合成に影響する樹木位置・葉面積指数の鉛直分布・樹高・胸高直径などを測定する。
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